解剖、標本 解明遠く ハンセン病入所者の強制堕胎

熊本日日新聞 | 2020年11月27日 09:34

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菊池恵楓園の前身、九州療養所時代に死亡者情報を時系列に列記した台帳「過去帳」。

 全国の国立ハンセン病療養所で、堕胎した胎児や新生児をホルマリン漬けにして保管していた問題で、菊池恵楓園(合志市)は1988年ごろ、廃棄処分したとされる。同園が今年9月にまとめた調査でも資料はほとんど見つからず、実態は解明されないままだ。慰霊碑は完成したが、入所者自治会は「調査はまだ尽くされていない」と訴える。

 「両手両足、指がしっかりと確認でき、髪が生えていた子もいた」。熊本大教育学部に在学中だった田中美代子さん(79)=合志市=は70年秋、恵楓園を見学した。職員に案内された部屋には、コの字型のテーブル上に高さ約30センチの瓶にホルマリン漬けにされた10体ほどの胎児の標本が並んでいた。「母親はどれほどつらかっただろう。考えるだけで胸が痛く、忘れられない」と証言する。

 国が設置した「ハンセン病問題に関する検証会議」が2005年にまとめた最終報告書によると、ホルマリン漬けの標本は、全国の国立療養所など6施設の計114体。06年に厚生労働省が謝罪して以降、全国13療養所のうち、10施設に慰霊碑が建立された。

 恵楓園でも「標本があった」という証言が相次いだが、園から正式な回答はなく、入所者自治会は建立を固辞してきた。だが、わが子の供養と、年老いた自分たちの命を考え、建立を決めた。苦渋の決断だった。

 6年に及ぶ園の調査では、1911~65年、出生児や死産児の解剖が少なくとも5体あったことが判明。生後5日で亡くなった1体は、死亡者情報を記録した台帳「過去帳」に「死体ハ解剖シ当所ニ保存アリ」と記載され、箕田誠司園長(62)は「『保存』は『標本』を指す。摘出した臓器の病理標本と考えられる」と指摘。標本の記録はこの1体のみだった。

 園は「調査は尽くした」とするが、入所者自治会の志村康会長(87)は「標本をどう処分したのか、職員の作業日誌や火葬・埋葬費用の領収書など記録は残っているはず。分からないでは納得できない」と語気を強める。(木村恭士)