命絶たれた子、冥福祈る 菊池恵楓園に堕胎児の慰霊碑建立

熊本日日新聞 | 2020年11月27日 09:38

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強制的に堕胎させられた胎児を悼んで建立した慰霊碑。除幕式に出席した入所者自治会の志村康会長(左から3人目)と太田明副会長(同2人目)ら=26日、合志市の菊池恵楓園

 国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(熊本県合志市)で26日、強制的に堕胎させられた胎児を悼む慰霊碑の除幕式があり、園や入所者自治会、熊本大医学部の関係者が、国の隔離政策と優生思想により命を絶たれた子どもたちの冥福を祈った。

 旧優生保護法(1948~96年)は、ハンセン病患者も優生手術の対象とした。子どもを持つことを許されず、各療養所で男性は不妊手術、女性は妊娠中絶を強いられた。

 標本にされた胎児や新生児もおり、2005年に問題が表面化。厚生労働省が謝罪し、各療養所に慰霊碑が建てられた。

 恵楓園では、調査しても詳細が分からなかったため、自治会は当初、建立を固辞した。ただ、入所者の平均年齢が84・7歳(5月1日時点)となり、最大1700人を超えた入所者数も10分の1まで減少。参拝できるうちに慰霊の場を設けようと建立を受け入れた。

 慰霊碑は高さ2・1メートル。「光を見ずに眠り続けるあなたに捧ぐ」と刻まれ、入所者がわが子を思って作った詩文のパネルも添えた。

 式に出席した箕田誠司園長(62)は「子を生むことを許されないことがどれほど悲しかったか察するに余りある。教訓を後世に伝えるため大切に管理する」と声を震わせた。

 旧優生保護法には、手術に本人や配偶者の同意を得る規定もあったが、実態は「強制に近かった」という。妻が堕胎させられた志村康自治会長(87)は「ようやく供養ができる。命が虫けらのように扱われた事実は絶対に忘れないでほしい」と話した。(澤本麻里子)

◆菊池恵楓園の骨格・胎児標本に関する調査 熊本医科大が1927~29年に九州療養所(現・菊池恵楓園)入所者の遺体43体を解剖し、20体の骨格標本を作っていたことが判明し、園が2014年に改めて調査を開始。全国の国立療養所に保存してあった胎児標本に関する記録が園に残っていないかも調べた。20年9月にまとまった報告書によると、1911~65年まで熊本医科大のほか、園の医師も遺体を解剖。389体の身元を特定した。胎児標本の記録は、ほとんど何も見つからなかった。