益城町の製麺所にラーメン店 仮設で提供経験、復興へ決意の一歩
熊本日日新聞 | 2021年09月10日 15:17


益城町広崎の富喜製麺所が7月、敷地内にラーメン店「富喜製麺研究所」をオープンした。熊本地震後、同町小谷のテクノ仮設団地で約1年間、ラーメンを提供した経験を生かし、自慢の自家製麺でファンを増やしている。
ラーメンは、つけそばと中華そばの2種類。使う小麦粉の種類や配合、麺の形状はそれぞれ異なる。麺の魅力を引き立てるため、魚介だしを、鶏ガラと豚骨を炊いたスープで割ったあっさりしょうゆ味にした。口コミやSNSで早くも注目を集め、連日、開店前から行列ができるほどの人気だ。
「自分でラーメン店を開くなんて、地震前は想像したこともなかったけど、いろんな経験や出会いのおかげで一歩踏み出せた」。製麺所3代目で、厨房[ちゅうぼう]に立つ村上誠一郎さん(27)が笑顔を見せる。
仮設団地内のプレハブ商店街に出店した時は、震災復興支援が一番の目的だった。創業半世紀の製麺所も被災し、製造ラインは一時停止を強いられたが、「被災者や全国から訪れたボランティアに温かいラーメンを食べてもらいたい」との思いで、豚骨ラーメンを作り続けた。
地震翌年、仮設団地の店を閉じてから、村上さんは全国のラーメンを食べ歩いた。人気店の味、特に麺についてもっと学ぼうと思ったからだ。被災をきっかけに出会った知人を訪ねては地元の名店を紹介してもらい、本業の傍ら、3年間で約600軒を巡った。
「仮設に出店していたころは実力不足だった。だから、改めてお客さんにこだわりの一杯を食べてもらいたいとの思いが強くなった」と村上さん。麺を卸している県内の人気ラーメン店から背中を押され、昨年秋からスープの勉強を開始。事務所兼倉庫を改装し、麺の味を追求する思いを込めて「研究所」と命名した。
「製麺所が手掛けるラーメンだから、プレッシャーはある。だけど、お客さんに『麺がきれい』『おいしい』と言われると、やっぱりうれしいし、仮設団地のころの交流を思い出して懐かしく感じる」
製麺所で扱う小麦粉の種類は、地震前の10種類から50種類に増え、取引先もラーメン店やイタリアンレストランなど県内外に広がった。各店の味に合わせた麺を提案できるよう昼の営業時間以外は試作に没頭する毎日だ。
「地震前は目の前の仕事をこなすだけで受け身だった」と村上さん。「お客さんと交流するうちに地域のことも考えられるようになった。復興が進む益城町が誇れるラーメン店にしたい」と意気込んでいる。
営業時間は午前11時半~午後2時半ラストオーダー。木曜定休。富喜製麺所TEL096(286)0020。(立石真一)
※2021年09月05日付 熊本日日新聞朝刊に掲載