首相の改憲発言 不見識な主張は慎むべきだ

2月19日 09:15

 安倍晋三首相が憲法改正に関し、憲法9条に自衛隊を明記すれば自治体が自衛官の募集に協力しやすくなるといった主張を展開し始めた。

 首相は、自治体が募集に非協力的だという認識のようだが、自治体などからは「実態に反しており、あまりにも乱暴だ」という声が上がっており、与野党からも首相の主張を疑問視する声が出ている。国の根幹である憲法の改正論議には精緻な論理構成が求められる。不見識な主張は慎むべきだ。

 首相はこれまでも、自衛隊について「憲法学者の7割が違憲と言っている」などとして「これに終止符を打つ」と繰り返してきた。そんな中、先週の自民党大会や衆院予算委員会で突然、「6割以上の自治体から自衛官募集に必要な協力を得られていない」と問題提起した。

 改憲に前のめりになる首相の姿勢とは裏腹に、国会の憲法審査会の論議は停滞したままだ。首相としては、災害派遣などで国民の信頼感や親近感が増した自衛隊を例に取り上げることで世論を味方に付け、何とか前に進めようとする意図があったのだろう。しかし野党の反発に火をつけた格好で、さらなる改憲論議の停滞は避けられまい。

 防衛省によると、自衛官の募集は、全国に50ある自衛隊地方協力本部が業務を担っている。各本部は、自治体から提出された名簿や、住民基本台帳を閲覧して得た個人情報を基に、18歳、22歳の住民にダイレクトメールの発送や戸別訪問などを実施している。

 2017年度の1741市区町村の対応をみると、「名簿提出」36%、「該当者を抽出した名簿の閲覧を認める」34%、「該当者を抽出せず閲覧を認める」20%。「いずれの対応もない」が10%あったが、募集効果が乏しいため協力要請をしていない自治体も含まれており、一切の協力を拒んでいるのは5自治体だけだ。

 自治体の多くは、個人情報保護条例など法令に従い、その範囲内で自衛官の募集に協力しているのが実態であり、首相の認識は事実誤認と言わざるを得ない。

 一方、自民党は所属議員に対し、地元自治体に名簿提出を促すよう求める通達を出した。しかし個人情報の厳格な管理が求められる中、対象が自衛隊であれ、個人情報が渡されることをどう考えるのか。慎重な検討が必要だ。

 自治体に名簿提出を義務付けるとしても、関係法令の整備で対応できる。9条とは全く関係のない話だ。公明党の北側一雄憲法調査会長が「自衛官募集と9条改正は直ちにつながらない」と指摘したのも当然だろう。

 首相は9条への自衛隊明記によって自衛官募集の「空気を変える」とも発言したが、見過ごせない。改憲で自治体が拒否できない「空気」をつくりだそうという発想だろうか。法に基づいて政治、行政を行うのが法治国家である。自衛官募集を引き合いに改憲を訴えるのはあまりに無理が過ぎる。