ハラスメント禁止 法的枠組みづくり急務だ

9月3日 09:23

 セクハラやパワハラなど、職場でのあらゆるハラスメントや暴力を禁止する条約を制定する方針が、今年5月末から6月にかけて開かれた国際労働機関(ILO)の総会で承認された。

 条約はハラスメントを包括的に定義し、禁止規定が盛り込まれる予定だ。社会規範の異なる各国の事情に合わせて勧告も作成し、条約を補完する。来年の総会での制定を目指しており、実現すれば初の国際基準となる。

 セクハラを含めた性暴力を被害者らが告発する動き「#MeToo」が世界中で広がり、日本でも、スポーツ界を中心にパワハラや暴力を告発し改善を求める機運が高まっている。そうした動きを後退させないよう、国内での議論をしっかり進めなければならない。

目立った消極姿勢

 ILO総会には、187カ国の労使の代表が政府の代表と同等の資格で参加した。ハラスメントの定義などは固まったものの、項目ごとに細かな修正案が相次ぎ、来年の総会で引き続き討議することになった。

 条約制定について、欧州連合(EU)各国やフィリピン、カナダ、アフリカ諸国、中国など多数が条約を支持したが、米国は反対。日本は「定義が広過ぎて、現時点では決められない。条約ではなく勧告が望ましい」などとして立場を保留。厚生労働副大臣が総会の演説でハラスメント問題に触れないなど、消極姿勢が目立ったという。

 日本が条約制定に後ろ向きな背景には、国内での対策の遅れがある。ILOの調査では、日本はハラスメントに対する規制が「ない国」との位置付けだ。

 セクハラを規制する法律は実質的に男女雇用機会均等法だけ。職場のセクハラ防止措置を事業主に義務付けてはいるものの、セクハラの定義や禁止規定はない。パワハラについては企業に防止措置義務もない。被害者の保護、救済には明らかに力不足である。

課題先送りのまま

 折しも、財務省の事務次官が、テレビ局の女性記者にセクハラ行為をしたと認定され、懲戒処分相当となる問題が起きた。これを受け、安倍晋三首相は6月、政府の「すべての女性が輝く社会づくり本部」で、「セクハラは明白な人権侵害で、あってはならない」と述べ、緊急対策の速やかな実施を指示した。

 ただ、その内容と言えば中央省庁の課長級以上に研修を新たに義務づけただけ。人権侵害と明言したのに、新たな被害者救済策にも、加害者への制裁にも、また、禁止制度の創設にも踏み込んでおらず課題は先送りされたままだ。

 ハラスメント防止の先頭に立つべき国家公務員幹部への研修が、今まで行われていなかったことも驚きだ。それがセクハラなどに対する従来の政府の姿勢を象徴しているとも言えよう。

 幹部研修はセクハラの構造的問題を理解できる内容にすべきで、単に昇進の条件とするような形式的なものとなってはなるまい。政府は研修を実効性あるものにし、官僚が率先して防止や啓発に努めるようにすべきだ。

根底に性差別問題

 世界経済フォーラムの2017年版「男女平等ランキング」で日本は144カ国中114位。賃金格差は解消せず、女性政治家も少ない。根底に性差別の構造的な問題があるとの指摘もある。

 ILO条約を批准するかどうかは各国の判断だが、批准すれば国内法の整備などが義務付けられる。政府が産業の国際競争力の強化を目指すのであれば、ハラスメント防止を含めた国際的な労働基準もきちんと批准して守るべきだろう。

 政府は、問題を一過性にせず、今こそハラスメントを禁止する法的枠組みづくりを始めるべきだ。