拉致問題 日朝対話で解決に道筋を

6月15日 09:16

 先の米朝首脳会談で、北朝鮮の金正恩[キムジョンウン]朝鮮労働党委員長が「安倍晋三首相と会う可能性がある。オープンだ」と述べ、日朝首脳会談の実施を排除しない考えを示していたことが分かった。

 日本は、ロシアが9月にウラジオストクで開く国際会合に金委員長を招待しているのに合わせ、日朝首脳会談の実現を目指して調整を進める。膠着[こうちゃく]状態が続いている拉致問題にも打開の糸口が見えてきたといえよう。

 拉致については米朝会談でトランプ大統領が提起したが、日本の主権に関わる問題であり、米国頼みではなく日本が主体的に解決すべきだ。対話の機運が生まれたこの機会を逃さず、戦略的な外交を本格化させたい。

 米朝会談で拉致に関して、どう議論されたのか詳しいことは分かっていない。トランプ氏は記者会見で「安倍首相の最重要事項で、確かに取り上げた」と語ったが、北朝鮮が「問題に取り組むだろう」と述べるにとどまった。米朝会談を報じた北朝鮮の朝鮮中央通信は拉致問題に触れなかった。

 トランプ氏から会談内容の説明を受けた安倍首相も「トランプ氏の強力な支援を得て日本が直接北朝鮮と向き合い解決する決意だ」と述べただけで、会談の中身には踏み込まなかった。しかし拉致問題の解決には国民の理解も不可欠だ。政府は米側からの報告をきちんと説明すべきだろう。

 首相の周辺によると、トランプ氏に拉致問題を提起された金委員長は「解決済み」との姿勢は示さなかったという。これまで北朝鮮側は、拉致被害者全員の帰国と真相解明、拉致実行犯の引き渡しを求める日本に対し、繰り返し「解決済み」と主張してきただけに、「大きな前進」とも受け取られている。

 安倍首相はかねて、「対話のための対話には意味が無い」と繰り返し、北朝鮮に対して圧力一辺倒の姿勢を取り続けた。その結果、北朝鮮との対話のチャンネルは途絶え、米韓が対話へと姿勢を急変させる中、米国に頼らざるを得ない状況に追い込まれた。

 過去の経緯を見る限り、確かに警戒は怠れない。しかし対話なくして問題解決への道筋を描くことはできまい。北朝鮮の真意を見極めながら、交渉を進展させていく必要がある。

 今後の協議のベースとなるのは2002年の日朝平壌宣言だ。宣言は、日本が過去の植民地支配で多大な損害と苦痛を与えたことに「痛切な反省とおわびの気持ち」を表明。その上で「日本国民の生命と安全に関わる懸案問題」との表現で拉致問題を取り上げ、核・ミサイル問題も含め包括的に解決した上で国交を正常化し、経済支援を行うことを表明している。

 拉致発生から長い年月がたち、被害者も家族も高齢化している。これ以上の猶予は許されない。米韓とも連携し、朝鮮半島の平和構築という課題に積極的に関わる中で、今回こそ拉致問題の全面解決につなげたい。