袴田さん再審認めず 地裁が指摘した疑問は残る

6月12日 09:17

 1966年、静岡県のみそ製造会社専務一家4人が殺害された強盗殺人事件で起訴され、死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さん(82)の第2次再審請求で、東京高裁は11日、2014年の静岡地裁決定を取り消し、再審開始を認めなかった。

 裁判のやり直しを認めた地裁の判断は4年余りで覆った。審理の場は最高裁に移り、さらなる長期化は避けられない見通しだ。

 袴田さんが30歳で逮捕されてから既に半世紀が経過。高裁は、死刑と拘置の執行停止について「年齢や健康状態などに照らすと取り消すのは相当ではない」として配慮は見せたものの、袴田さんは人生の大半を司法手続きに翻弄[ほんろう]されており、これ以上、いたずらに時間をかけることは許されまい。最高裁には慎重かつ迅速に結論を出すことを求めたい。

 約4年にわたった高裁での審理の最大の争点は、事件の1年2カ月後にみそタンクから見つかり、犯人の着衣とされたシャツやズボンなど「5点の衣類」に付いた血痕のDNA型鑑定に対する評価だった。

 14年3月、第2次再審請求で静岡地裁は、筑波大の本田克也教授が行ったDNA型鑑定の結果から袴田さん以外のものである可能性を認定。警察による証拠捏造[ねつぞう]の疑いを指摘して再審開始を決定、釈放も認めた。検察側は本田教授の鑑定手法に異を唱え、東京高裁に即時抗告した。

 高裁は、鑑定の妥当性を確認するため、検察側が推薦した大阪医科大の鈴木広一教授に検証実験を依頼。検察側は同教授の検証を基に「本田教授が使った試薬にはDNAを分解する働きがあり、検査に用いるのは許されない」と指摘。これに対し、弁護側は「本田教授と手法や器材が異なり、検証になっていない」と批判し、議論は平行線のままとなっていた。

 高裁決定は、静岡地裁決定の根拠となったDNA型鑑定の結果について「鑑定手法は科学的原理や有用性に深刻な疑問があるにもかかわらず、過大評価した」と指摘。地裁が指摘した捜査機関による証拠捏造の疑いについても「具体的な根拠に乏しく、捏造した合理的な疑いは生じない」と結論付けた。

 ただ、袴田さんが犯人なら、事件現場の専務宅の放火に使った油で5点の衣類を焼いてしまうのが自然だ。なぜ、みその出荷や仕込みで多くの人が作業をする工場のタンクに隠したのか。地裁決定が指摘したいくつかの疑問は残ったままだ。

 また、即時抗告後、検察側が開示した約46時間に及ぶ取り調べの録音テープでは、警察が連日、長時間にわたって自白を迫っていたこともうかがえる。

 死刑は国家が命を奪う究極の刑罰だ。今回、地裁、高裁が反対の判断を示したことで、最高裁の審理が注目されるが、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則にのっとり審理を尽くしてもらいたい。