憲法記念日 まず政治への信頼回復を

5月3日 09:22

 日本国憲法は3日、1947年の施行から71年を迎えた。多大な犠牲を出した先の大戦を経て制定されたことを改めて思い起こし、憲法と平和について考える1日にしたい。

 安倍晋三首相は、昨年の憲法記念日のビデオメッセージで改正憲法の2020年施行を目指すと表明した。国会で圧倒的多数を占める自民党はその後、年内の国会発議も視野に改憲案をまとめた。ただ、なぜ今、憲法改正なのか。首相の意気込みは国民に広く理解されていないようだ。

 共同通信の憲法に関する世論調査では、安倍首相が掲げる20年の改正憲法施行に6割超が反対と回答した。その結果からは、安倍政権下で議論が加速することへの国民の抵抗感が浮かぶ。首相はこうした世論に真摯[しんし]に耳を傾け、拙速は慎むべきだ。

政令や予算措置で

 安倍首相は、9条に自衛隊を明記する案を提起した。これを受け、自民の憲法改正推進本部は、首相提案に加え、日本維新の会が主張する教育無償化や与野党の一部で浮上していた緊急事態条項の新設、自民の参院側が求める参院選の「合区」解消を合わせた4項目の改憲条文案をまとめた。

 このうち、大災害時や武力攻撃を受けた際の緊急事態条項新設について自民は、大地震や有事の際に国会が十分機能しない場合、内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できるようにするなど、政府の権限強化の必要性を主張する。

 しかし大災害や有事とはいえ、明確な歯止めがないまま内閣に立法機能が付与されれば、乱用の恐れとともに国民の私権制限が拡大する懸念もある。

 現行の災害対策基本法や武力攻撃事態法でも、国会が開けない場合は政府が政令で対処できる。教育無償化も予算措置で十分対応できよう。また、合区解消は、「投票価値の平等」を損なう懸念があり、国会議員は「全国民を代表する」と定めた憲法43条と矛盾しかねないとの指摘もある。

国民に届く議論を


 自民が本丸と位置付けるのは9条改正だ。首相は戦争放棄の9条1項、戦力不保持などを定めた2項を維持した上で自衛隊の存在を明記する考えだ。自民案では両項を残したまま9条の2を新設して「前条の規定は(略)必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、(略)内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」とする。

 しかし、「必要な自衛の措置」と、自衛隊を合憲とする従来の政府見解で使われてきた「必要最小限度の実力」には、大きな違いがある。「最小限度」の歯止めが外れて、「必要な自衛の措置」のためと首相が判断すれば、今の自衛隊以上の「戦力」を持つことも可能となるからだ。

 憲法に関する世論調査では、自民が掲げる改正4項目全てで否定的な回答が上回った。国民が改憲の必要性を実感しているとは言い難く、政権が「スケジュールありき」で国会発議の手続きを進めても、国民投票で過半数の理解を得るのは難しいのではないか。国民に届く丁寧な議論が必要だ。

何のための改正か

 政府は、現状でも自衛隊は合憲だとしている。首相は「違憲論争に終止符を打つ」と言いながら、仮に自衛隊明記の改正案が国民投票で否決されても、合憲性は変わらないとも断言する。

 それでは何のための改正なのか。自衛隊の在り方そのものに、どういう変化があるのかが不明確なまま国民投票が実施されても、国民は判断のしようがない。

 憲法は権力を縛る規範であり、権力の拡大につながる改正にはより厳格な理由が必要だ。日本の安全保障のために自衛隊の活動を広げると言うのであれば、国民に必要性を説明し、真正面から改正論議を呼び掛けるべきだ。

 自衛隊のイラク、南スーダン派遣PKOの日報隠蔽[ぺい]問題で文民統制(シビリアンコントロール)に重大な疑義が生じ、森友学園問題を巡る公文書改ざんなどで政権に対する信頼は大きく揺らいでいる。安倍首相の下での改憲に国民が慎重になっているのも、その影響が大きいだろう。

 政権が今、真っ先に取り組むべきは、一連の疑惑解明と再発防止、行政府に対する信頼回復ではないか。国民が腰を据えて憲法問題を論議するには、政治に対する国民の信頼と安定が不可欠だ。

 自民案を批判する野党も、「安倍改憲ノー」を唱えるだけでは国民の共感は得られまい。現行憲法の下、東アジアの平和と安定をどう構築するのか。今後の日本の安全保障戦略と併せて国民に具体的に示す責任がある。