カヌー薬物混入 愚行の徹底検証が必要だ

1月14日 09:14

 ライバルに濡[ぬ]れ衣[ぎぬ]を着せて蹴落とす-。スポーツマンにあるまじき卑劣な行為だ。

 昨年9月に石川県小松市であったカヌー・スプリント日本選手権で、鈴木康大選手(32)が小松正治選手(25)の飲み物に禁止薬物を混入させていた。2020年の東京五輪が近づく中、前代未聞の不祥事となった。

 鈴木選手は、禁止薬物である筋肉増強剤メタンジエノンを含むサプリメント錠剤を粉末にして小松選手のボトルに入れていた。錠剤は海外遠征中にインターネットで購入したという。小松選手はレース後のドーピング検査で陽性となり、成績は取り消され、暫定的に資格停止処分となった。

 他者を陥れることを狙った今回の行為は、自らの競技力を向上させる目的のドーピングとは別次元の悪質性がある。日本カヌー連盟の成田昌憲会長は「世界でも類を見ないと思う。まさか仲間同士の問題が起きるとは考えもしなかった」と戸惑いを隠せない。

 鈴木選手は小松選手の台頭を脅威に感じていたという。目標だった東京五輪への不安があったのだろうが、理解しがたい愚行だ。他の選手のパドルを盗んだり壊したりしたことも認めている。一般的な道徳心や社会常識を著しく欠いていると言わざるを得ない。検査で「陽性」とされた小松選手は、真っ先に鈴木選手に相談したという。裏切られた小松選手は、さぞ大きな衝撃を受けたことだろう。

 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は鈴木選手に8年間の資格停止処分を科すとともに、暫定的に資格停止としていた小松選手の処分を解除した。カヌー連盟は鈴木選手に対し、定款上最も重い除名処分を理事会、総会に提案するという。

 ロシアの国ぐるみのドーピング問題が2月の平昌[ピョンチャン]冬季五輪に影を落とす中、日本選手はフェアでクリーンというイメージが国際的に定着している。東京五輪を前に、その信頼を損なってはならない。国や各競技団体は、鈴木選手が不正に及んだ経緯や背景を徹底的に検証し、再発防止策を練る必要があろう。

 ドーピング検査でいったん「陽性」になると、選手自身が無実を証明しなければならない。このため、けがや病気で処方される薬も事前に届け、一度ふたを外した飲み物には口をつけないなどの自衛策を取ることも選手たちの常識となりつつある。

 事件を受け、日本カヌー連盟は主催大会で「ドリンク保管所」を設けることを決めたが、それだけでは不正の防止は難しかろう。選手や指導者は一層の自己管理に努めるとともに、競技団体も会場の設営や警備体制などのサポートに力を入れ、互いに役割分担して根絶を目指したい。

 スポーツ倫理について選手に改めて教育したり、選手たちを精神面で支えるメンタルトレーナーなど専門知識を持つスタッフを充実させたりすることも考えるべきだろう。