冤罪の防止 さらなる刑事司法改革を

11月04日 07:11

 1985年に宇城市松橋町で男性が刺殺された「松橋事件」で、殺人などの罪で服役し、昨年3月に再審無罪が確定した宮田浩喜さん=熊本市=が亡くなった。

 宮田さんは、違法な捜査で殺人犯の汚名を着せられたなどとして国と県に損害賠償を求めて提訴していた。訴訟は遺族を原告として継続される予定だが、弁護団が冤罪[えんざい]の原因究明と名誉回復の手段と位置付けていた審理の結果を、本人は聞くことができぬままとなってしまった。

 今年は、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件発覚から10年。これを教訓として、一部事件への取り調べの録音・録画(可視化)などが進められてきたが、取り返しのつかぬ結果を招く冤罪の防止に向けては、まだ多くの課題がある。さらなる刑事司法改革が必要だ。

 取り調べの録音・録画は、昨年6月に施行された改正刑事訴訟法で義務付けられた。「冤罪の温床」と批判されてきた密室の取り調べからの脱却へ、大きな一歩ではある。

 ただ可視化義務の対象は、裁判員裁判で審理される殺人などの重大事件と、検察が独自捜査する事件だけで、取り調べの適正化を積極的に進めるためには、対象事件の拡大が求められる。

 また重大事件でも、逮捕される前の任意段階での聴取は、可視化の対象となっていない。

 今年4月には、滋賀県の病院で患者の人工呼吸器を外し殺害したとして殺人罪で服役した元看護助手の西山美香さんの再審無罪が確定した。無罪判決を下した大津地裁は、軽い知的障害があって相手に迎合しやすい西山さんの特性を利用して「供述をコントロールした」と捜査を批判した。

 西山さんのような、いわゆる「供述弱者」を冤罪から守るためには、任意段階からの可視化に加え、弁護人の立ち会いなども検討すべきだろう。松橋事件と同様に捜査側による不都合な証拠隠しも指摘された。証拠の全面開示を担保する制度改革も必要だ。

 冤罪の再発防止のためには、捜査過程の検証が求められるが、検察、警察が自ら検証し、結果を公表した例はほとんどない。再審無罪が確定した事案については、検証を義務付け、過ちの教訓を社会と共有すべきではないか。独立した検証機関の設置も視野に入れて検討してもらいたい。

 再審のハードルの高さも課題である。ハンセン病患者とされた男性が殺人罪に問われ、無実を訴えながら死刑執行された「菊池事件」は、熊本地裁が、事実上非公開の特別法廷であった男性の審理を違憲と判決し今年3月に確定した。しかし、差別を背景に遺族は再審請求に踏み切れず、遺族以外で唯一請求権を持つ検察官も、国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園入所者自治会など3団体の請求要請に応じていない。3団体は国民の請願権に基づく再審請求人の拡大運動をスタートさせたが、冤罪被害救済の新たな門戸を開く動きとして期待したい。

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