「黒い雨」訴訟判決 早急な援護行政見直しを

7月31日 07:11

 広島市への原爆投下直後に放射性物質を含む「黒い雨」を浴び、健康被害を受けたにもかかわらず、国が定めた援護対象区域の外にいたことを理由に被爆者健康手帳の申請が認められないのは違法とする訴えが、司法の場で初めて認められた。広島地裁が29日に下した判決で、原告84人全員を被爆者と認定し、広島県と広島市に、手帳の交付を命じた。

 不十分と指摘されてきた過去の調査に基づく対象区域の線引きにこだわり、専門家の新たな知見や個々の被爆体験を軽んじてきた援護行政の在り方を厳しく問い、見直しを迫るものだ。原爆投下から75年。被爆者の高齢化は進み、亡くなる人も増えている。被告側は控訴を見送り、全面救済の判決を確定させるべきだ。

 原告は70~90代の広島県の住民。1945年8月6日の原爆投下後、国が援護対象とした「特例区域」外で黒い雨を浴びたり、汚染された井戸水や農作物を摂取したりし、がんや白内障などを発症した。2015~18年に被爆者手帳を申請したが却下され、15年以降に相次いで提訴した。

 判決は、国が特例区域を設定する根拠とした気象台の調査について、原爆投下直後の混乱期に実施されており、特に外縁部のデータが乏しいと指摘。ほかの調査結果も検討し、雨はより広い範囲で降ったとの結論を導き出した。その上で各原告らの供述に不自然、不合理な点はなく、全員が黒い雨にさらされ被ばくしたと認定した。

 黒い雨が健康被害をもたらす過程では、直接浴びる外部被ばくだけでなく、汚染された飲食物を摂取する内部被ばくの可能性も加味して検討する必要があることも指摘。「黒い雨による健康被害を裏付ける科学的根拠がない」とする被告側の主張は、特例区域内においても具体的にその根拠が問われることはなかったとして退けた。

 全体に、実態が十分に分かっていない放射線被害に苦しむ人々をできる限り救済するという、被爆者援護法の理念を尊重した画期的な判断と言える。

 訴訟は、特例区域の見直しを求める40年以上にわたる住民運動の末に起こされた。判決が採用した区域外でも雨が降ったとする専門家の意見は、当初から証拠として示されていた。行政側は「苦しみや不安を理解してほしい」という住民の声に、誠実に耳を傾けてきただろうか。

 国はこれまでの姿勢を反省し、救済拡大へかじを切るべきだ。原告と同様の健康被害に苦しんでいる人がほかにいないか、対象の掘り起こしも進める必要がある。

 裁判の被告は、国の法定受託事務として被爆者手帳の交付審査を担う広島県と広島市である。両者はこれまで、被爆地の自治体として援護拡大を国に要望する一方で、国の基準に従って原告らの手帳申請を却下してきた。控訴を見送った上で、今後は被爆者の側に立ち、国の援護行政の早急な見直しに向け強く働き掛けてもらいたい。