ネット中傷対策 細部の詰めを急ぐべきだ

7月29日 06:54

 インターネット上に匿名で陰湿な投稿を重ね、集団で攻撃する「ネットリンチ」が社会問題となる中、総務省は被害者の救済に向けた対策案をまとめた。

 悪質な投稿の出どころを特定しやすくするため、被害者が会員制交流サイト(SNS)の事業者に発信者の電話番号の開示を請求できるようにすることなどが柱だ。発信者情報を開示するかどうかを裁判所が訴訟を経ずに判断・決定する「新たな裁判手続き」の創設も検討するという。

 こうした制度が導入されれば、悪質な投稿には法的手段も辞さないという強い態度を公に示すことにもつながる。ただ、発信者情報の安易な開示拡大はネット上の活発な意見表明を制約する恐れもある。憲法で保障された「表現の自由」や「通信の秘密」をどう守っていくのか、正当な批判までも封じられないかなど課題も多い。細部の詰めを急ぐべきだ。

 ネット上の中傷対策を議論してきた総務省の有識者会議が検討を加速させたのは、テレビ番組出演を巡ってSNS上で誹謗[ひぼう]中傷にさらされた女子プロレスラーの木村花さんが5月に死去し、社会問題化したことがきっかけだった。

 現行の制度では、被害者が匿名の投稿者を割り出すにはSNS事業者とプロバイダー(接続業者)にそれぞれ訴訟を起こす必要があり、時間も費用もかかる。制度改正には、被害者側のこうした負担を軽くする狙いがある。

 ただ、「新たな裁判手続き」の導入に関しては、有識者会議でも「匿名による表現の自由の保護レベルを下げることになるのではいないか」など、表現の萎縮を懸念する声が相次いだ。「制度導入を先に決め、内容は後で決めるのでは順序が逆だ」との厳しい批判もあり、有識者メンバーの半数が慎重な検討を求める意見書を提出する事態となっている。

 確かに、手続きを簡単にし過ぎれば、政治家や大企業などが自身に批判的な人物を割り出すために制度を悪用する恐れもある。被害の救済と表現の自由のバランスを取るべきだ。

 SNS事業者側も、利用者保護の対応が不十分という批判の高まりを受けて、不適切投稿の削除や問題投稿を未然に防ぐ取り組みを導入するなどの対策に本腰を入れ始めている。

 事業者でつくる「セーファーインターネット協会」(東京)が6月末に設置した、投稿の削除要請を代行する相談窓口には、約半月で280件の相談が寄せられた。悪質な投稿をなくし、被害者救済の道を開くためには、国と事業者が連携を強めながら対策に取り組む必要があろう。

 ネットはもはや人と人をつなぐ主要ツールであり、社会生活に欠かせない存在となっている。ただ、サービスが急速に多様化し拡大する中、法改正だけでは中傷などの抑止には限界がある。適切な利用を促すリテラシー教育や、被害者の相談体制の拡充を含めた総合的な対策が求められる。