ALS患者嘱託殺人 「生きてほしい」と伝えたい

 

7月28日 07:11

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者から依頼を受け、薬物を投与し殺害したとして、京都府警が嘱託殺人の疑いでいずれも男性医師の大久保愉一容疑者と山本直樹容疑者を逮捕、送検した。

 容疑が事実であるならば、救命を第一の使命とすべき医師が、それとは正反対に自らの手で人を死に至らしめた許し難い犯罪である。この事件が、生きづらさを抱えている難病患者や重度障害者らを、さらに追い詰めるような影響を与えることが懸念される。社会は、こうした人たちに対し、繰り返し明確に「生きてほしい」と伝え続けなければならない。

 京都府警の発表などによると、昨年11月30日に2人が、ALS患者の林優里さんの京都市の自宅を訪問した後、林さんの容体が急変し搬送先の病院で死亡した。死因は急性薬物中毒で、2人が鎮静薬を投与したことが疑われている。

 2人は主治医ではなく、林さんはツイッターを通じ、大久保容疑者に自身の殺害を依頼した形跡があったという。山本容疑者の口座には、林さんから計130万円が振り込まれており、府警は金銭目的で請け負った可能性があるとみている。

 第三者が薬物などで死を早める「積極的安楽死」は日本では認められていない。一方、終末期医療で患者の意思などで延命措置を中止する「消極的安楽死」は、「尊厳死」とも呼ばれ一部容認されてきた。厚生労働省のガイドラインでは、専門家チームが、家族らも含めて丁寧な話し合いを重ねた上での決定を求めている。

 事件時まで林さんとの対面もなかったとみられる2人が、意思決定に至るまで、丁寧なやりとりができていたとは思えない。さらにやりとりの消去を指示しており、「積極的安楽死」の違法性も認識していたようだ。

 林さんのブログには、安楽死を肯定する内容が多く見られたものの、新しい治療法などに希望を抱く投稿もあったという。一方で大久保容疑者は自身のものとみられるブログに「高齢者を『枯らす』技術」とタイトルをつけ、安楽死を勧めていた。生と死の間で揺れる林さんから前向きの心情を引き出すことなく、優生思想の影響を思わせる自分の価値観に従うように導いていったのではないか。

 今回の事件を受け、一部から安楽死の法制化を求めるような反応が出ていることについて、ALSの当事者であるれいわ新選組の舩後靖彦参院議員は「強い懸念を抱いている」と強調。「こうした考え方が難病患者や重度障害者に『生きたい』と言いにくくさせ」ると指摘した。

 「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にしていくことが何より大切だ」との舩後氏の主張に全面的に賛成したい。4年前の相模原殺傷事件に続き、社会的弱者の命にどう向き合うかが、改めて問われている。事件の不安に抗するためにも、社会の側がまず、患者、障害者の「生」を支えるメッセージを発すべきだ。