黒川検事長辞職 問われる政府の人事責任

5月23日 08:03

 東京高検の黒川弘務検事長が辞職した。新型コロナウイルスの緊急事態宣言下で、新聞記者らと賭けマージャンをした疑いがあると週刊文春に報じられ、その事実関係を認めた。

 賭けマージャンは賭博罪に関わる行為だ。1回の勝ち負けは1人数千円~2万円だったというが、金銭自体を賭けることを認めないとした最高裁判例もある。検察組織への国民の信頼も損なう不祥事で、稲田伸夫検事総長の監督責任のみならず、このような人物を異例の人事で検察ナンバー2に据え置いた政府の責任も問われよう。

 もともと黒川氏は検察庁法の定年規定により、2月7日に退官するはずだった。だが、政府は直前の1月31日、半年間の定年延長を閣議決定。安倍政権に近い黒川氏の検事総長就任の道を開いたとされた。

 政府は国家公務員法の延長規定を適用したと説明していたが、過去の国会答弁で「この規定は検察官には適用されない」としていたことが発覚。その後、「閣議決定前に、『適用される』と法解釈を変更していた」と説明を変えたものの、「口頭で決裁した」と決裁文書も示さず、後付けでの正当化が疑われた。

 政府はさらに3月、検察幹部の役職定年や定年を政府の判断で延長できる検察庁法改正案を、国家公務員法改正案と一本化して国会に提出した。これも黒川氏人事の正当化などが疑われ、多くの著名人のほか、松尾邦弘元検事総長ら検察OBも反対を表明。こうした世論の強い反発を受けて、今国会での成立は断念していた。

 検察官は、行政機関の職員ではあるが、「準司法官」とされ公訴権をほぼ独占している。ロッキード事件をはじめ、政界の訴追事件も担ってきた。政権が検察幹部への人事介入を強めることで、権力監視の仕組みが脅かされることが懸念されている。

 森雅子法相は黒川氏の定年延長について、重大で困難な事件の捜査と公判に対応するため、「黒川氏の指導監督が不可欠」と理由を述べていたが、無理に無理を重ねて据え置いたその黒川氏が今回の醜態を招いたのである。特例人事の危うさ、政権の「人物を見る目」も厳しく問われよう。森法相は辞任しない意向だが、この間の国会の混乱も含めて辞任に相当するのではないか。

 安倍首相は21日、黒川氏の定年を延長したことについて「総理大臣として当然責任がある」と記者団に述べた。ならば、1月の閣議決定をさかのぼって取り消し、その上で、検察庁法改正案も白紙撤回するべきだ。

 今回の不祥事では、報道機関と取材対象者との距離の取り方も問われている。賭けマージャンには、産経新聞記者と朝日新聞の元記者が参加していた。報道機関が取材対象者と接触を重ねるのは、あくまで権力の監視や国民の知る権利実現が目的だ。決して、癒着や違法行為があってはならないことを改めて銘じておきたい。