再審無罪 冤罪被害救済の迅速化を

4月2日 07:06

 宇城市松橋町の松橋事件に続いて、再審無罪の判決がまた重ねられた。しかし冤罪[えんざい]の救済には依然として長い年月がかかっており、迅速化を図らなければならない。

 滋賀県の病院で2003年、患者の人工呼吸器を外したとして殺人罪が確定、服役した元看護助手の西山美香さん(40)の再審公判で、大津地裁は無罪判決を言い渡した。

 西山さんを取り調べた警察官は、西山さんの軽度の知的障害や自分への恋愛感情を利用し、捜査情報に沿った自白供述を誘導。逮捕前から連日聴取された西山さんは、警察官を喜ばせたい一心でうそをついたという。再審判決は、西山さんの供述の信用性を否定。「(うそをついて有罪になったのは)西山さんのせいではない。問われるのは捜査手続きの在り方だ」と断じた。

 患者の死因についても、判決は「人工呼吸器の管が外れたため」という決めつけを疑問視。専門家の意見などを基に「致死性の不整脈や、たんの吸引が行われなかったことによる低酸素状態が死因となった」とし、自然死の可能性が高いと認定した。そもそも本件は事件ではなく、殺人自体が架空のストーリーだったと言える。

 警察は捜査で「患者の死因はたん詰まりの可能性がある」という医師の解剖所見を得ていた。しかし、検察庁にその報告書を送致していなかった。事件の見立てと矛盾する証拠を隠した、と言われても仕方がない。しかも報告書の存在が明らかになったのは、再審開始が決まった後だった。

 西山さんは無実の罪で服役し長い年月を奪われた。取り返しのつかない冤罪を生まないために、捜査機関はまず証拠に正しく向き合うという基本を徹底してもらいたい。見立てにとらわれて不都合な証拠を排除するようでは、事件や司法手続きをゆがめてしまう。

 誤りを速やかに正し、冤罪の被害を救済するには、再審のスピードアップが必要だ。西山さんは服役中の2010年から2度にわたって再審請求したが、無罪判決までに10年を要した。

 刑事訴訟法は「無罪を言い渡す明らかな証拠」が発見された場合に再審を開始すると定める。だが証拠のほとんどは検察の手中にあり、再審を請求しようとする側が証拠一覧を見られるような仕組みになっていない。開示を巡る弁護人と検察官の激しい対立を招き、再審請求の準備や開始決定までに時間がかかる要因となっている。

 松橋事件も再審請求から昨年3月の無罪判決まで7年かかった。供述と矛盾する新証拠の「シャツ片」が再審開始のきっかけとなったが、検察が開示しなければその存在さえ分からなかった。政府と国会は、証拠開示を含む再審ルールの法制化を急ぐべきだ。

 知的障害者をはじめとする「供述弱者」は、今回のように、事件でなくとも虚偽の自白をしてしまうことがある。取り調べに弁護人や保護者を立ち会わせることの制度化も考えてもらいたい。