NHK同時配信 国民的議論が置き去りだ

9月23日 09:01

 インターネット視聴では災害報道や一部のスポーツ中継などに限られていたNHKのテレビ番組が、来春までに放送と同時に全番組見られるようになる。先の国会で改正放送法が成立。「常時同時配信」が実現することになった。

 放送を巡る環境は劇的に変化している。パソコンやスマートフォンでの動画視聴が急速に広まり、若者のテレビ離れも著しい。動画配信市場では海外企業が勢いを増している。NHKにはこのままでは世界の大勢から取り残されるとの危機感が強いのだろう。

 「公共メディア」へ

 ネット同時配信は、「公共放送から公共メディアへの進化」を迫られるNHKにとって不可避かもしれないが、公共放送を巡る国民的議論は置き去りのままだ。

 NHKは、テレビを設置した世帯から受信料を徴収している。放送と同様に考えると、テレビがなくてもネットで番組を視聴できるスマートフォンやパソコンがあれば、受信料を取るのが筋だろう。だが、スマホなどはNHKの番組を見るだけでなく、いろいろなことに使える。新たに受信料を課せば、反発を招くのは必至だ。

 そこでNHKはネット同時配信を、受信料を払っている世帯向けのサービスと位置付け、追加負担なしでの利用を可能にした。受信料を払っていない世帯に対しては動画の上に受信契約を促すメッセージを表示。事実上、同時配信を視聴できないようにするという。

 NHKを見るかどうかを通信で選択できるなら、放送でも選べるようにすべきではないのかといった指摘もある。NHKの放送を見ないなら、受信料を払わなくてもいいことにしてほしいとの声も根強い。NHKはネットへ本格進出する理由と使命を丁寧に説明し、広く視聴者の理解を得るべきだ。

 民業圧迫の批判も

 民業圧迫の批判も絶えない。ラジオを含め9チャンネルを有し、2018年度の受信料収入は7122億円(速報値)に上る。民放連幹部は「配信業務の事業費が無制限に拡大していくとすれば、肥大化につながる」とけん制する。NHKは、ネット常時配信を「放送の補完」と位置付けた上で、費用を受信料収入の2・5%以内に抑える方針だが、肥大化への懸念は尽きない。

 公共放送のネット業務として適正な規模はどうあるべきか。将来的にネットを通じた視聴者の増加に受信料制度をどう適合させていくか。十分な議論が求められる。

 先行するNHKに水をあけられないよう、民放キー5局も来年1月、キー局などが放送直後の番組を無料提供している共通サイト「TVer(ティーバー)」で夕方のニュース番組を同時配信する実験に乗り出すという。キー局の放送区域は関東1都6県だが、ネットでは全国で視聴できるようになる見通しだ。

 ただ、本格実施に向けては、系列地方局との調整が課題となろう。キー局の番組をネットで全国に配信すれば、同じ番組を放送している系列局の視聴者が減る可能性があるからだ。CMなど広告費にも影響し、地方局の経営基盤を揺るがしかねない。

 不利益は視聴者に

 ネット同時配信によって視聴者の利便性が向上するのは歓迎だが、それによって地方局の経営が傾けば、地域の放送文化や地方のニュース報道、言論機能の衰退を招く恐れもある。結果的に不利益を被るのは視聴者であり国民だ。慎重な対応と配慮を求めたい。

 NHKはじめ放送と政権との距離を疑問視する声も根強い。ネット同時配信が本格化すれば、所管する総務相の関与が強まり政治の介入を招きやすくなるのではないかと指摘する声もある。ネット時代の公共放送はどうあるべきか。広く国民の声を聴く必要がある。