諫早湾干拓判決 問われる政府の取り組み

9月14日 09:20

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、潮受け堤防の排水門を開けるよう命じた確定判決の効力が争われた請求異議訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷が、国の訴えを認めて開門命令を無効とした福岡高裁の判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。

 排水門を巡っては、漁場悪化の原因を調べるために開門が必要と訴える漁業者と、開門による塩害などを懸念する営農者らによって訴訟が乱立。「開門」「開門せず」と相反する司法判断が確定している。審理差し戻しでねじれ解消は先送りとなった。

 今後は和解協議の再開も選択肢となろう。だが、複雑に絡み合った糸を解きほぐすのは容易ではない。混迷の原因は、確定判決を無視して「開門せず」にこだわった国にあることは明白だ。対立解消と有明海の再生に向けた政府の取り組みが問われている。

 開門を命じたのは漁業者らの主張を認めた2010年の福岡高裁判決。当時の民主党政権が上告せずに確定した。

 一方で、これに反対する営農者らは開門しないよう求めて国を提訴。裁判で「開門反対」が本音の国は漁業被害を主張しなかった。長崎地裁は17年、農業被害を重視して国敗訴の判決を出し、国が控訴せずに確定した。

 矛盾する司法判断はいわば国が自ら招いたものだ。にもかかわらず「身動きがとれない」として、開門を命じた確定判決を事実上無効とするよう求めたのが今回の裁判である。一審の佐賀地裁は国の訴えを退けたが、昨年7月の福岡高裁では国が逆転勝訴し、漁業者が上告していた。

 福岡高裁は「漁業者の共同漁業権は更新期限に消滅した」として確定判決を無効としたが、最高裁はこれを否定。一方で確定判決の内容の特殊性を指摘し、今後は無効化もあり得ることを示唆した。

 一連の過程で浮かび上がるのは「始めた公共工事は絶対にやめない」として、「開門せず」にこだわる国の姿勢だ。国は総額100億円の漁業振興基金案を提示したこともあるが、「開門しない」が前提だったために漁業者との信頼関係を築くことはできず、決着しなかった。

 漁業者、営農者に正面から向き合うならば、国は10年の確定判決を受け、塩害を防ぐ手だてを丁寧に説明するなどして開門に理解を求め、漁業被害について実効性ある調査に取り組むこともできたはずだ。

 営農開始から11年が経過した干拓地では700ヘクタール近い農地で35戸が営んでいる。一方で、有明海ではさまざまな漁場改善事業が行われているものの特産「タイラギ」は不漁が続き、養殖ノリの色落ちなども多発。混迷する訴訟は住民の分断を深めている。

 豊かな有明海と地域のつながりを再び-。それは漁業者と営農者の共通の目標であるはずだ。国は関係者による協議の場を設けるなどして共生の道を探るべきだ。事業主体の責任である。