日ロ首脳会談 現状見据え戦略見直しを

9月7日 08:05

 安倍晋三首相は5日、ロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と会談した。両首脳は平和条約締結に向けた交渉を未来志向で進める方針で一致、共同経済活動を近く試行する計画を確認したものの、焦点の北方領土問題で具体的な進展はみられなかった。

 北方四島の実効支配を強めるロシアと返還を目指す日本の立場との溝は埋まらないままで、ロシア側は日米安保体制を交渉の障害と指摘するなど道筋の険しさがより鮮明になった。安倍政権はこうした現状を直視し、対ロ交渉の戦略を見直す必要があろう。

 安倍首相とプーチン大統領は昨年11月、歯舞群島と色丹島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させることで合意した。しかし、その後、協議は重ねるものの、条約の大筋合意を目指した今年6月の大阪での会談は不発に終わり、交渉は停滞したままだ。

 安倍首相はプーチン氏と27回目となる今回の会談で、領土問題解決への意思を改めて確認する考えを表明、仕切り直しを図った。ところが、プーチン氏は会談直前に色丹島の水産加工工場の稼働式典にビデオ中継で参加。島の開発への自らの直接的な関与を見せることで、日本側の期待に冷や水を浴びせる格好となった。

 先月にはロシアのメドベージェフ首相が択捉島を訪問。日本政府の抗議に対し、「ここはわれわれの土地だ」と強弁している。こうした一連のロシア側の言動には、実効支配が揺るぎのないことを誇示し、領土問題で妥協する考えはないという基本姿勢を強調する意図があるのは間違いない。

 安倍首相は、プーチン氏との個人的信頼関係によって事態打開の糸口を探っているが、「第2次世界大戦の結果、北方領土が合法的にロシア領になったと日本が認めることが交渉の前提」とするロシア側の姿勢はかたくなだ。

 さらに、米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効した中で、プーチン氏は北方領土を引き渡した場合に米軍が展開する可能性に言及。地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の日本導入にも懸念を示し、日本側をけん制している。

 世論調査では北方領土の日本引き渡しにロシア国民の7割程度が反対。実質所得の低落傾向や強権的な体制への不満からプーチン政権への支持率も低迷する中で、日本側に譲歩する気配はみえない。

 北方領土問題の解決を政権のレガシー(政治的遺産)にしたい安倍首相が焦りを見透かされれば、ロシア側の一層の攻勢を招くことになりかねない。今回合意した観光ツアーの試行をはじめとする共同経済活動や元島民の墓参といった実績を重ねて信頼関係を深めるなど腰を据えた対応が大切だ。

 首相は、わが国の重要課題である北方領土の交渉方針や展望について可能な限り国民に説明する必要がある。その上で、歴史に禍根を残さないよう、長期的な視点を持って交渉を進めてもらいたい。