「不自由展」中止 「表現の場」脅かす事態だ

8月8日 09:17

 愛知県で1日に始まった国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」が開幕からわずか3日目に中止に追い込まれた。会場では従軍慰安婦問題を象徴する「平和の少女像」などが展示されていたが、抗議の電話やメールが殺到。主催者が「安全な運営が危ぶまれる状況」として急きょ中止を決めた。

 「ガソリン携行缶を持って会場に行く」と、京都アニメーション放火殺人事件を連想させる内容のファクスも送られてきたという。こうした卑劣な暴力的行為によって「表現の場」が脅かされ、閉ざされたのは憂慮すべき事態だ。

 企画展は、公立美術館などで行政が拒否したり、批判を恐れ自粛したりして公開されなかった作品を集めた。芸術祭の芸術監督を務めるジャーナリストの津田大介さんらが、「インターネットで横行するバッシングが、表現の自由を脅かしているのではないか」といった問題意識を基に企画したという。

 「物議を醸して議論を起こすことに意義がある」との思いもあったようだが、開幕直後から主に少女像を巡って想定をはるかに超える抗議、脅迫が相次いだ。日韓両政府の対立と重なった影響も大きかったろう。

 企画展が中止になったことを受け、出品作家を含む約70人のアーティストが抗議声明を発表。芸術祭の目的は「個々の意見や立場の違いを尊重し、すべての人びとに開かれた議論を実現するため」とし、中止によって作品を理解、読解するための議論も閉ざされてしまう、と指摘した。

 中止を決定する前に、多様な意見を交わす場を設ける試みがあっても良かったのではないか。今回の中止決定は「表現の自由」を萎縮させ、「表現の不自由」が現実にあることを図らずも印象づけてしまった。

 異なる意見を認めず、気に入らない表現活動を暴力的圧力でやめさせるような行為がまかり通ってはならない。あしき前例としないよう経緯を検証し教訓として残す努力が関係者には求められよう。

 この問題を巡っては政治家の言動にも疑問符が付いた。芸術祭は愛知県と名古屋市が経費を負担し、文化庁の補助金事業として開かれている。

 実行委員会の会長代行を務める河村たかし名古屋市長は、少女像について「日本人の心を踏みにじる」と批判し、展示中止を要求。また、菅義偉官房長官は補助金交付を慎重に判断する考えを示した。これらの言動には、公金支出を理由にして「自分の意に沿わない表現活動は認めない」との思いが底流にありはしないか。

 一方で、実行委会長の大村秀章愛知県知事は、表現の自由を保障する憲法21条を挙げて河村氏の発言を批判し、「公権力こそ表現の自由を守るべきだ」と話した。賛同したい。公権力の表現活動への介入が、往々にして社会の抑圧につながることは、歴史が教えるところである。