米朝首脳会談1年 合意履行へ信頼の醸成を

6月17日 09:40

 史上初の米朝首脳会談が実現して1年になる。両首脳は北朝鮮の非核化で合意はしたものの、その後の具体的な進展は見られていない。合意の履行段階で暗礁に乗り上げ、対決局面に向かうという「いつか来た道」を再現してはならない。相互が信頼醸成を図る地道な努力を重ねていくべきだ。

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は昨年6月12日、シンガポールで初の会談に臨み、共同声明に署名した。「朝鮮半島の完全非核化」「新たな米朝関係樹立」などを確認。国際社会は、朝鮮半島に残る冷戦構造の解体へ向かうのかと期待した。しかし、具体的な非核化措置や手順を巡る交渉は難航。今年2月、両首脳は再びベトナム・ハノイで会談したが物別れに終わり、交渉の行き詰まりは決定的となった。

相反するシグナル

 ここにきてとりわけ懸念されるのは、米朝の双方で政策調整や交渉陣容の不透明さが増していることだ。

 トランプ氏は再三にわたり金氏との信頼関係を強調。今月10日にも金氏から「美しい手紙を受け取った」などと記者団に話した。これに対し、政権内のポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、北朝鮮の非核化の意思に懐疑的だ。

 北朝鮮は5月に「軍事訓練の一環」として短距離弾道ミサイルを相次ぎ発射したが、この時もトランプ氏は「脅威ではない」と発言。一方のポンペオ、ボルトン両氏は「国連安全保障理事会の制裁決議違反だ」と正反対の受け止めをし、北朝鮮に相反するシグナルを送ってしまった。政権内で意思疎通が円滑に行われているのか、見えにくくなっている。

 他方、北朝鮮側ではハノイでの首脳会談が不調に終わると、交渉を担当した幹部や実務者の去就がしばらく途絶えた。韓国では粛清説も報道された。今月4日には、北朝鮮外務省報道官が「米国は一日も早くわれわれの要求に応えるのが良いであろう。忍耐心にも限界がある」という談話を発表。共同声明の履行を目指す立場を強調しながらも、「敵視政策」を見直すよう迫った。

 今後の交渉の行方は視界不良だ。金氏は、完全な非核化が全てに優先すると迫るトランプ政権に反発。「年末まで」と時間を区切った上で、段階的に非核化を行いながら、制裁の緩和や解除、関係改善に向けた措置などを講じるプロセスづくりを求めている。

 こうした立場の相違から、にらみ合いを続け危機が再燃するという構図は、北朝鮮の核問題が浮上した1990年代から繰り返されてきた。

プロセスの明確化

 1年前に両首脳の決断でまとまった共同声明は、いわば努力目標にすぎない。履行段階では実務交渉を積み上げ、信頼醸成を図るという外交の基本に立ち返らなければならない。肝心なところを先送りしたツケが、今日の膠着[こうちゃく]状態を招いているのではないか。履行に向けた実務交渉を早急に再開すべきだ。少なくとも北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイルの試射を留保している現在の状況を維持しつつ、非核化プロセスを明確にする交渉が求められる。

G20と日本の役割

 そのためには、日韓や中ロなど関係国が役割を分担して政策調整を図る必要があるだろう。認識を共有するためにも、今月末に大阪で開催される20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)で、首脳レベルの意見交換を進めてもらいたい。

 議長を務める安倍晋三首相は、拉致問題の進展という前提条件なしでの日朝首脳会談開催を呼び掛けている。北朝鮮の非核化という大きな構図の中で果たせる日本の役割もアピールしていきたい。