香港大規模デモ 「逃亡犯条例」改正撤回を

6月15日 08:12

 中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案を巡って、香港の若者らが反対運動を活発化させている。

 9日に行われた大規模デモには、主催した民主派団体の発表で103万人が参加した。12日には、撤回を求める数万人の若者らが集まって主要幹線道路などを占拠し、立法会(議会)を包囲。警官隊は抵抗するデモ隊を強制排除し、多くの負傷者が出る激しい衝突が起きた。

 改正案は、中国本土や台湾など香港が犯罪人引き渡し協定を結んでいない国・地域にも香港当局が拘束した容疑者の引き渡しを可能にする内容。香港政府が4月、立法会に提出した。

 民主派団体は、中国共産党に批判的な活動家らが本土に引き渡される恐れがあると猛反発。香港政府は「政治犯は対象外」と説明するが、「過去にさかのぼって適用する」と明言したことで市民に不安が一気に広がり、大きなうねりとなった。

 司法が共産党の影響下にある中国では、人権派弁護士らが刑事事件で摘発されるケースが相次ぐ。香港でも、中国共産党や習近平国家主席を批判する本を多数販売していた書店の関係者が失踪し、中国当局に拘束されるという事件が起きている。条例改正により、「司法の独立」が失われるとの市民の不安は当然だろう。

 ただ、香港政府は改正案を撤回しない方針だ。審議は延期されたものの、立法会は親中派が多数を占めており、可決される可能性が高い。水面下で指揮しているとみられる中国政府も支持を表明している。民主派は抵抗を続ける構えで、再び衝突が起きる可能性がある。香港政府は採決を強行せず、政治犯引き渡しに利用されないためにはどうすればよいか真剣に検討すべきだ。

 行政長官選の民主化を求めた2014年の大規模民主化デモ「雨傘運動」が成果なく終わって以降、香港では若者の政治への関心が低下していた。しかし、改正案を引き金に香港の“中国化”への嫌悪感が噴出している。中国の投機マネー流入に伴う住宅価格の高騰や格差拡大など、若者の社会に対する不満の高まりが背景にあるという。

 改正案の影響は香港市民にとどまらない。日本など外国人の旅行者やビジネスマンも引き渡し対象となる可能性があるからだ。米国務省は、香港に住んだり訪れたりする米国人が中国の「気まぐれな司法制度」の支配下に置かれることで、香港のビジネス環境に悪影響が出る恐れがあると指摘している。

 中国政府は1997年の香港返還の際、50年間は「高度な自治」と「一国二制度」を守ると約束した。その核心的価値ともいえる司法の独立が骨抜きにされようとしている。中国、香港両政府は改正案を撤回し、懸念払拭[ふっしょく]に努めるべきだ。香港市民の訴えを強権的に抑え込み、“第二の天安門事件”にしてはならない。