3月23日付

3月23日 09:16

 2006年に開かれた第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表監督を務めた王貞治さんは驚かされたことがある▼チームが練習場に着いて準備体操でも始めようかという時、既に打球音が響いていた。チームとは別行動だったイチロー選手が、全体練習が始まる前から一人で汗を流していたのだ▼日米で輝かしい実績を残している選手にしてこの準備。「プロ野球選手とはどうあるべきか、野球人とはどういう存在なのか。これを身をもって体験できた」ことが他の選手には大きな財産になった、と王さんは回想している(二宮清純著『プロ野球名人たちの証言』講談社現代新書)▼そのイチロー選手が現役引退を決断した。最後の舞台となった東京ドームは「イチロー・コール」に包まれた。「後悔などあろうはずがない」という言葉通り、未明に及んだ会見ではすっきりした表情だった▼ただ、トップランナーとして走り続けてきたことの、苦悩や厳しさをしのばせるひと言もあった。イチロー選手がプロ入りしたのは1992(平成4)年。94年にレギュラーの座をつかむが、野球が楽しかったのはその頃までだったと話していた。チームやファンの期待を背中に負い続けてきたのだろう▼残り1カ月ほどで平成が終わる時期の引退も何かの巡り合わせだ。スポーツ選手の枠にとどまらず、まさに平成という時代を象徴する一人といっていい。これからは鈴木一朗として野球を楽しんでほしい。28年間、お疲れさまでした。