2月19日付

2月19日 09:04

 「那智黒」と聞いてピンとくる人は囲碁ファンだろう。三重県熊野市で採掘される黒く硬質の粘板岩で、囲碁の黒石に用いられる▼すずりや高級玉砂利の石材でもあるが、古くは試金石として重宝された。金などの貴金属を表面にこすり付けると筋になって痕が残る。この色を見たり薬をかけたりして真贋[しんがん]や純度を判定した▼安倍晋三首相の通算在職日数は既に2600日余り。今月23日に吉田茂元首相、8月に大叔父の佐藤栄作元首相を抜き戦後1位になる。長い「1強」の背景には、内閣人事局を設けて官僚人事を掌握した点も大きいとされる。むろん多くの「忖度[そんたく]官僚」を生み出すゆえんにもなった▼イエスマンばかりの政権なら、政策の方向性や真贋を判定する試金石は国会質疑やメディアの会見だ。自民党は2017年、慣例を度外視して野党の質問時間を制限しようとした。16年には当時の総務大臣が、テレビ局に電波停止をちらつかせながら「政治的公平」を求めた▼さらに首相官邸は昨年末、特定の記者が事実に基づかない質問を繰り返しているという理由で、事実上の質問制限を促す文書を記者クラブに示した。並べてみれば全て同じ線上にある。異論、反論を封じる動きだ▼試される側が試金石を非難するときは、真贋に自信がないと解するのが自然である。米国では国家非常事態を宣言したトランプ大統領が記者会見で「フェイク(偽)な質問だ」と断じて異論を退けた。個人的にも親密と言われる日米両首脳だが、分かる気もする。