2月11日付

2月11日 09:21

 <時はゆっくりと過ぎ、すみやかに去っていく>。米国の作家アリス・ウォーカーさんの代表作『カラーパープル』の一節である。未来への歩みは遅く、到達するとそれは足早に過去となる。熊本地裁で8日、開かれた「松橋事件」の再審初公判の記事を読みながら、この言葉を重ねた▼事件が起きて宮田浩喜さん(85)が逮捕されたのが1985年。それから34年を経て、宮田さんがずっと待ち望んできた冤罪[えんざい]を晴らす裁判は、わずか30分ほどの審理で即日結審となった▼認知症を患い、ほぼ寝たきりの宮田さんは、法廷に立つことはできなかった。「この日まで長かった。再審開始がもっと早ければ、父も、亡くなった兄もこの場にいられた」。宮田さんの次男賢浩[まさひろ]さん(60)が述べた悔いは、家族としての正直な感想であろう▼ほとんどの証拠調べをしなかったスピード審理は、宮田さんの体調を考慮して、早期の決着を図るためと考えれば理解はできる。しかし、それは逆に再審請求からも7年かかったやり直しの歩みの遅さもまた、浮き彫りにしたと言えるのではないか▼捜査や確定判決がなぜ誤ったのかという検証も、結果として非公開の再審請求審での審理が中心となった。そのことにも疑問は残る▼来月28日に指定された判決で、無罪が言い渡されるのは確実である。それにどれだけ、冤罪を生み、救済は遅れ、事件も迷宮入りさせた司法の反省が込められるのか。すみやかに忘れ去ってはならない数多くの課題が、この裁判には残されている。