1月11日付

1月11日 09:03

 子どもの頃の日曜日、遅い朝食が済むと必ずチャンネルを合わせ、家族で見ていた記憶がある。遠く離れた国の風景や文化、人々の暮らしぶりを紹介する「兼高かおる世界の旅」。その兼高さんが帰らぬ人となった。90歳だった▼1959年から約30年続いた紀行番組で、リポーターだけでなくナレーター、プロデューサー、ディレクターまで務めた。訪ねた国は150カ国、移動した距離は地球180周分というから驚きだ▼プロペラ機による世界一周最速記録や、南極と北極の両方での取材など逸話を挙げればきりがない。番組が始まったのは、庶民には海外旅行が高根の花だった時代。「いつかはあの女性のように世界を旅したい」と茶の間で夢を膨らませた若者も多かったことだろう▼今やスマホを開けば瞬時に世界旅行を疑似体験できる時代ではあるが、20代日本人の出国者は96年をピークに減り続けている。若年人口の減少に加え、若者の“内向き志向”や学生の貧困、社会人の休みの取りづらさといったさまざまな理由も重なってのことだろうが▼海外には行きたいけれど、余裕がない。そんな若者たちに、兼高さんはこんな言葉を贈る。「自分がやりたいと信じることは、きっとできる」「常に自分で見て、感じないと」(『わたくしが旅から学んだこと』小学館)▼今年は春に10連休もある。経験豊富な兼高さんなら、若者たちもわくわくする旅のプランを幾つも教えてくれたことだろう。気品あふれる語り口がもう聞けないのが残念だ。