10月15日付

10月15日 09:21

 主人公は、オーディションに合格してアイドルグループの一員となった少女。武道館でのライブ実現を目標に活動する彼女たちの姿を通して、女性アイドルの本心や、取り巻く大人たちの思惑、彼女たちを「消費」する側の精神性までが描き出される▼直木賞作家の朝井リョウさんが4年前に書いた長編小説『武道館』(文芸春秋)だ。改めて読み返してみたら、買った時は気付かなかったが、本の帯にはこんな言葉が記されていた。「本当に、私たちが幸せになることを望んでる?」。4年後の今起きていることを予見していたかのようにも思える▼愛媛を拠点に活動していた女性アイドルが、今年3月自殺した。まだ16歳だった。遺族が先日、所属会社のパワハラや過酷な労働環境で精神的に追い詰められたことが原因として訴訟を起こした▼会社側は反論しており、真相はまだ分からない。ただ、仕事と学業の両立に悩み脱退の意向を伝えた彼女に、無料通信アプリで暴力的なメッセージを送るなどの行為が繰り返されていたのは事実のようだ。彼女の幸せを心から望み、救いの手を差し伸べる大人はいなかったのだろうか▼芸能人の権利保護団体には、彼女のような地方アイドルから「辞めさせてもらえない」「セクハラやパワハラを受けた」との相談が多く寄せられているという▼『武道館』の主人公は大人の事情に振り回されながらも「私のなりたい自分」を貫く。しかし現実は、それすらも許さない理不尽がまかり通っているのかもしれない。