9月4日付

9月4日 09:08

 先の週末は山都町の八朔祭[はっさくまつり]だった。収穫を前に豊作を祈る祭事だが、杉や竹など自然物だけで制作される「大造り物」も見どころの一つだ。今年は迫力満点の竜虎の造り物が最優秀賞に輝いた▼県内では植物以外にも鍋釜など身の回り品を材料に、動物や、時には実在の人物までこしらえる「造り物」が見られる。宇土市や大津町など各地の地蔵祭り、高森町の風鎮祭…見事なものだ▼熊本大の安田宗生名誉教授によれば、大阪以西で熊本ほど造り物が盛んな地域はないそうで、その底流にあるのは「ものを何かに『見立て』る精神」という(本紙「わたしを語る」)。折々のニュースを題材に、機知にあふれた名場面、珍場面が再現されたりするのはその表れか▼幕末から明治期の生[いき]人形師松本喜三郎や安本亀八も地蔵祭りで腕を磨いた。熊本の庶民文化の“華”だった造り物だが、豊かな伝統も今や、後継者不足で息絶え絶え。とはいえ悲観するばかりでもない▼NHKの朝のドラマ「ひよっこ」のオープニング映像が話題になったミニチュア写真家田中達也さんは熊本市出身。今年の個展では納豆の発泡スチロール容器を重ねて熊本城に見立てた“お城納豆”など、楽しい新作が披露された▼田中さんが自ら名乗る肩書が「見立て作家」。造り物とミニチュアと大きさは違っても、共通する熊本の文化的記憶がにじむ思いがする。造り物も昔と全く同じとはいくまいが、長続きさせるための方策を探りたい。見立ての精神で培った機知も役立つはずだ。