3月13日付

3月13日 09:15

 公儀奥右筆[おくゆうひつ]組頭立花併右衛門が厳しい声で断じる。「奥右筆は不偏不党が是である。どのような状況になろうとも、それを曲げることは許されぬ」。上田秀人さんの小説「墨痕[ぼっこん] 奥右筆秘帳」(講談社文庫)の場面だが、実際に奥右筆という役職は存在した▼江戸時代、将軍の側近として文書の作成・管理を担った。他の干渉を防ぐために、独立した御用部屋が設けられていたという。先日の本欄の武士道の続きではないが、武家の文官もまた私心を捨て励むことが求められていたようだ▼こちらは現代の奥右筆ともいうべき、中央官庁の官僚である。その中でも「最強官庁」と称される財務省。きのう、森友学園への国有地売却を巡る問題で、決裁文書を書き換えたことを認める調査結果を報告した▼決裁文書を国会に提出した当時の担当局長だった佐川宣寿氏の答弁との整合性を図るためだったという。ではなぜ、佐川氏は「記録は廃棄した」「価格交渉は行っていない」と言い張る必要があったのか。疑惑は依然晴れない▼そもそもこの問題は安倍晋三首相の昭恵夫人の関与が疑われたのが発端。昭恵夫人を現地に案内し「いい土地ですから、前に進めてくださいとのお言葉をいただいた」との森友側の発言の記載も削除されていた▼かつて文官である右筆が仲介者としても力を持ったことがある。豊臣秀吉の時代。独裁が進めば進むほど、その意思をスムーズに政策へと反映させることが優先されたからだ。現代にも通じる「1強」の弊害であろう。