3月9日付

3月9日 09:03

 熊本市の第一高校の一角に、地層のよく見える「露頭」がある。NHKの人気番組「ブラタモリ」でも紹介されたが、この地層は9万年前、阿蘇の4度目の巨大噴火でできた「Aso-4」という火砕流堆積物である。熊本の市街地は同じように厚さ40メートルのAso-4で覆われているという▼「火砕流堆積物は、直径二百キロメートルの地域に分布する。というより中九州はその昔、阿蘇の爆発によって形成されたと言えばいいか」。巨大噴火の影響をそう表現したのは、本紙の先輩記者で直木賞作家となった故光岡明さんだった▼「阿蘇は私たちを太古へ連れもどす名山である」「山は時間を超越して泰然と立つ」。阿蘇の雄大な景観を描きながら光岡さんが言いたかったのは、自然活動の時空的な広がりと荒々しさだったのではないか。まことに火山は人の手に負えない代物である▼阿蘇中岳第1火口の立ち入り規制が、3年半ぶりに解除された。と思う間もなく、活動の活発化で再び見物できなくなった。観光客らはしばらく我慢するしかなさそうだが、安全のためには致し方ないことだろう▼人の思い通りにはならないのが自然であり、そこに手に負えないほどの悠久の営みがあるからこそ、わざわざ見物に行くのではないか▼南九州に目を転ずれば霧島連山の新燃岳[しんもえだけ]がうごめき、7年ぶりに爆発的噴火をみせている。ここも火山、その南の桜島もまた火山、実に列島は火山だらけだ。非力な人間は悠久の時空に思いをはせ、せいぜい警戒しておくしかない。