11月8日付

11月8日 08:01

 13世紀の日本に見知らぬ文字が伝わっている。中国に渡った僧が居合わせた異国人に書いてもらったとされ、仏教発祥のインド近辺の言葉で経文の一部と考えられていた▼ペルシャ語だと分かり解読されたのは明治も終わり。「歓[よろこ]びの世は誰にも永続きはせぬ」。詩句の抜粋らしい。正倉院の宝物にもペルシャからの輸入品は多い。シルクロードを介した豊かな交流が思い浮かぶ▼ペルシャがイランと改称したのは1935年。テロ、核と昨今は物騒なイメージも付きまとうが、長く暮らしたペルシャ文学者の岡田恵美子さんによると「世界一のおしゃべり上手」という(「言葉の国イランと私」平凡社)▼東西の十字路で交流に活路を見いだしてきたイランでは弁舌は大切な能力。一緒に話していると不思議と心が晴れ、わだかまりが魔法のように解ける。「そうか、そんな道もあった」と何度救われたことか、と▼そのイランがウランの濃縮を再開した。イランが核開発を制限する見返りに欧米は経済制裁を解除する-とした2015年の合意から米トランプ政権が一方的に離脱し、経済制裁を再開したことへの対抗措置である。米国の展望なき圧力政策は結果としてイラン強硬派の台頭を招き、中東の混乱、核の危機を加速させている▼イランには「古い楽器でも新しい曲は弾ける」という箴言[しんげん]があるという。互いに知恵を絞り、誠意と言葉を尽くせば、再び合意に戻る道も見えてこよう。制裁と挑発。読み違いによる暴発は何としても避けなければ。