10月19日付

10月19日 08:01

 寄席で演じられる伝統芸の一つに「紙切り」がある。客席からのお題の声に応じ、当意即妙にさまざまな光景を切り抜いて見せるのが肝だ▼時事問題の注文も多いので、芸人は新聞をじっくり読み準備しておく。ところがある日、早耳の客から先刻起きたばかりの「三島由紀夫事件」の声が上がり往生した。スマホの速報などない時代の逸話を、演芸評論家の矢野誠一さんが『昭和の藝[げい]人千夜一夜』(文春新書)に書き留めている▼難題ではある。しかし酷暑のお題は初めから承知のはず。開幕まで300日を切っての変更は、何とも芸のない話ではないか。IOCが打ち出した東京五輪のマラソン・競歩の札幌開催である▼ドーハでの陸上の世界選手権で、棄権者が相次いだことが契機になったという。「選手の健康を守る」との理由は分かるが、開催日延期という手もあるのでは。そこは論議せぬところに、多額の放映権料を支払う米国のテレビ局の意向を優先する「マネーファースト」の姿勢が垣間見える▼「都民ファースト」が看板の小池百合子・都知事は早速反発したが、都にしても招致活動で、開催時季は「温暖」などとアピールしていた引け目があろう。同じファースト絡みなら、「選手ファースト」の対応を最優先してほしいところだ▼思えばこの問題、金栗四三さんが熱中症で倒れたストックホルム五輪から百年越しで積み残されてきた。「なーし今まで選手の声ば聞いてこんやったとですか」。高座に訴える金栗さんの嘆きが聞こえる。