10月9日付

10月9日 08:01

 「狂っているのは、俺か、世間か」。米コミックの人気ヒーロー、バットマンの宿敵となる男はつぶやく。ベネチア国際映画祭で最高賞に選ばれた米映画『ジョーカー』が公開された▼男は売れないコメディアン。どうしようもない貧しさの中、誰からも認められないことに絶望し、社会への憎しみを募らせていく。全編にわたって重苦しい雰囲気が漂う▼架空の街が舞台だが、分断が深まり銃乱射事件が相次ぐ米国社会を暗示しているよう。残虐なシーンも多く、米国では警察が警戒を強め、マスク姿やコスプレでの入場を禁じる映画館も。何とも物々しい雰囲気である▼物々しさではこちらも引けを取るまい。抗議電話への対策を強化し、金属探知機による入場者の検査まで行うという。愛知県で開かれている国際芸術祭で抗議を受け中止していた企画展『表現の不自由展・その後』がきのう、再開された▼元慰安婦を象徴する少女像や昭和天皇を扱った作品を不快と思う人がいるのは分からないではない。ただ、どれほどが実際に展示を見たのか。意見を述べるには正面から作品と向き合う必要があろう▼さらに、違和感が拭えないのが政府の対応である。文化庁は「手続きの不備」を理由に内定していた補助金の不交付を決め、再開されても決定は変わらないという。政府の意に沿わない展示は認めない、と言っているようなものだ。不自由展を巡る問題は、まるで『ジョーカー』と米国社会のように、今の日本の重苦しさを暗示している気がする。