7月20日付

7月20日 08:47

 明治大正期のキリスト教思想家である内村鑑三に「楕[だ]円形の話」という一文がある。「真理は円形にあらず、楕円形である…2個の中心の周囲に描かるべきものである」▼楕円の描き方を思い出す人もおられよう。ピン2本を紙に立て、輪にしたひもをかける。鉛筆をひもに引っかけ、たるまないよう動かせば奇麗な楕円が出来上がる。円は中心が一つ、楕円は二つ▼これに習ったか、敬虔[けいけん]なクリスチャンとして知られた大平正芳元首相も「楕円の哲学」を旨とした。横浜税務署長時代、「行政には楕円形のように中心が二つあり…二つが均衡を保ちつつ緊張関係にある場合が立派な行政」と挨拶したという▼政治と社会、あるいは国と国の理想的な関係は、とも読めよう。一見対立し、距離があるものを、強引に片方にまとめず、多少いびつでも互いの良さを認めながら存続させ、より高い次元へと昇華させる-。楕円の思想は知恵の一つでなかったか▼ひるがえって日韓である。徴用工問題に端を発した対立は泥沼化の一方だ。輸出規制、韓国要請の再協議拒否、国際提訴検討…と日本政府は矢継ぎ早。しかし、日本が中心のごとき振る舞いばかりではまとまるものもまとまるまい。ここはひとつ楕円を描く工夫も必要では▼そういえば沖縄の基地移転や貿易交渉、防衛装備、憲法改正と、この国では国がやたらしゃしゃり出る場面が目立つ。視線の先に国民というもう一つの中心、有りや無しや。日米関係が米国中心の円になった結果でもあるまいに。