6月13日付

6月13日 09:15

 中国古典の『孟子[もうし]』に「恒産[こうさん]なければ因[よ]って恒心[こうしん]なし」とある。ちゃんと生活していける収入や財産が人々に備わっていないと、不動の道義心を保ちにくい。政治家はまず国民に恒産を持たせなければならない、という教え▼問題となった金融庁金融審議会の報告書も、そんな老後資金の現状への警告だと考えればうなずけなくもない。いわく、年金だけでは生活は賄えない。少子高齢化でさらに年金の原資は不足していくだろう。95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要だ▼だれもがうすうす感じていた真実だったからこそ、これほど不安と反発が広がったのに違いない。発表されるやいなや、報告書は火だるまになった感がある▼驚いた政府と与党が報告書を「受け取らない」と表明した。世論の反発があったから、なかったことにするというのでは臭い物にふた。問題を先送りするだけだろう▼仮に2千万円が必要として、それだけの資産があったり、運用したりできる人はよい。だが、そうでない人はどうすればよいのか。先行きを直視して「年金だけで生活できるように努力します」というのが、まっとうな政治ではないか▼孟子と同時代とされる『荘子[そうし]』に「言[げん]は風波[ふうは]なり、行いは実喪[じっそう]なり」とある。「実喪」は落ちた果実のこと。発言すれば世間に波風を起こすが、いったん起きた結果は取り返しがつかない、という戒めだ▼いやいや、放言で知られる麻生太郎金融担当相ならもとよりご存じのはず。余計な忠告だったかもしれない。