ダム以外の対策、着実に 球磨川治水

熊本日日新聞 | 2021年1月28日 09:31

 26日の球磨川流域治水協議会では、国や熊本県、流域市町村が10年程度で実施する「緊急治水対策プロジェクト」案が示された。ハードを中心に多彩なメニューが並び、整備途中の各段階で、どれだけ水位を下げられるかも明示した。ただ、昨年7月の豪雨災害からまだ半年余り。「なぜ川辺川ダム白紙撤回後の12年の間に、こうした議論が進まなかったのか」。疑問が残る。

 国土交通省が示した資料によると、7月豪雨に対しては、川辺川への流水型ダム建設を含めた緊急プロジェクトが完了した段階でも、八代市坂本町や芦北町の一部では水が堤防を越えてしまう。そこで、宅地のかさ上げなどを実施して家屋の浸水を防ぐとした。

 一方、7月豪雨以前で被害が最大だった1965(昭和40)年洪水に対しては、流水型ダムが完成していない段階でも他のメニューにより、堤防そのものを水が越えることはないとの推定が示された。堤防決壊の恐れがなく安全に流せる「計画高水位」を越える地点があるため、河川管理者としては「万全」と言えないだろうが、効果はある。

 川辺川ダム白紙撤回後に始まった、国交省と県、市町村による「ダムによらない」治水対策の議論は、昭和40年洪水を目標としていた。しかし、国交省が最大1兆2千億円の事業費や最長工期200年の10案を示し、議論が進まなかった経緯がある。

 今回の緊急プロジェクトも、ダムを除けば河川区域でのメニューに大きな違いはない。にもかかわらず、10年程度での事業完了を見込み、昭和40年洪水なら少なくとも越水は防げるというわけだ。

 仮に国交省の説明通りとして、なぜ、こうした「なんとか越水は防げる対策」の議論が、ダムによらない段階では引き出せなかったのか。

 蒲島郁夫知事は26日の協議会終了後、「経験したことのないような水害が起きる前であり、今と比べると油断があったと思う。いかんともし難い人間のさがかもしれない。私自身、深く責任を持っている」と発言。その責任があるからこそ「つらいこと」だが、方針を転換し、早々と流水型ダム選択の方向性を示したと強調した。

 ダムによらない議論を取材していて、記者自身、今回ほど大きな犠牲を生む可能性について切迫感を持っていたかといえば、否だ。

 今回、どれだけ水位を下げられるかの効果の推定には、田んぼダムやため池の活用といった河川区域外での対策の効果は含まれておらず、まだ「伸びしろ」がある。

 対して、地元で反対意見が根強い流水型ダムの建設には踏むべき手順も多く、今回も完成時期の明示には至っていない。そうであればこそ、他の対策は今度こそ、着実に積み重ねたい。(太路秀紀)