鳥インフル、厳戒の冬 「いつ起きてもおかしくない」 熊本県内、防疫に注力

熊本日日新聞 | 2020年11月30日 12:30

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家畜伝染病を防ぐため、養鶏場に出入りする車両には欠かせない消毒作業(緒方エッグファーム提供)

 渡り鳥が日本に飛来する季節を迎え、養鶏に脅威となる鳥インフルエンザが早くも各地で多発している。香川県に続き、25日には福岡県宗像市の養鶏場で九州の今季1例目が確認され、熊本の養鶏農家や行政機関は「いつ県内で起きてもおかしくない」と危機感を強める。豚熱など他の家畜伝染病への警戒も欠かせず、畜産業界は防疫対策に気を抜けない日々が続く。

 「ウイルス侵入を100パーセント防ぐのは難しいが、これまで以上に気を引き締めて防疫に努めてほしい」。福岡で鳥インフル感染が確認された25日、熊本県畜産課は畜産団体の担当者らを県庁に集め、厳重な警戒を求めた。

◆過去の経験から

 県によると、県内の養鶏農家は165戸、飼養羽数は約672万羽。鳥インフルは2014年4月に多良木町、16年12月に南関町の養鶏場で発生したが、いずれも迅速な殺処分などで周辺への感染拡大を食い止めた。

 鳥インフルは、例年なら渡り鳥の飛来がピークとなる12月から増える傾向にあるが、今年は11月から確認が相次ぐ。農林水産省の家きん疾病小委員会は「全国的に例年より感染リスクが高い」と警鐘を鳴らす。

 過去に2度の鳥インフルを経験した県内の養鶏業界には、消毒などの基本的な防疫に加えて新たな対策に取り組むところもある。

 採卵鶏約1万1千羽を飼う合志市の緒方エッグファームは10月、飼養衛生の質を高める「農場HACCP(ハサップ)認証」を2年半がかりで取得。責任者が不在の時でも、従業員が鶏の異常を県に通報する手順をマニュアル化した。

 14戸が加盟する県養鶏農協(合志市)は、ウイルスを媒介する小動物が養鶏場周辺で増えるのを防ぐため、職員が11月に狩猟免許を取得した。箱わなを使って小動物を捕獲し、感染リスクを減らす考えだ。

 鶏舎に動物の侵入路や防疫上の不備がないかなど、仲間同士の見回りや点検にも力を入れる。草野貴晴副組合長(52)は「感染が起きたら、あとは殺処分を見守るだけになる。生産者は予防に手を尽くすしかない」と表情を引き締める。

 万が一、鳥インフルが発生した場合には、資機材やマンパワーを迅速に投入し、初動段階でウイルスを封じ込めることが感染拡大防止のかぎになる。県は6日、運送業者らと防疫資材を発生地に運ぶ演習を熊本市で実施。この時期は同様の訓練を各地で催している。

◆コロナと同じく

 畜産の現場を脅かす家畜伝染病はほかにもある。国内では豚熱が中部や関東、沖縄などに拡大。韓国や中国など東アジアでは、10年前に宮崎県で猛威をふるった口蹄疫[こうていえき]や、致死率が極めて高いアフリカ豚熱が続発している。

 こうした状況に畜産地域の危機感は強い。JA菊池は本年度、牛や豚を飼養する組合員約300戸を対象に、消毒用の動力噴霧器を割安で購入できる支援策を始めた。国の補助事業を活用し、JA自らも資金を出す。

 三角修組合長は「新型コロナと同じく、目に見えないウイルスは対策が難しいが、農家が大切に育てた家畜を殺処分することがないよう全力を尽くす」と決意を語る。(福山聡一郎)