核兵器禁止条約発効へ 世界の現実を変える力に

2020年10月26日 08:01

 核兵器の開発から使用まで一切を禁止する核兵器禁止条約が来年1月に国際法として発効することになった。原爆投下から75年を経て、核廃絶を求める訴えがようやく、核兵器を明確に「悪」と規定する条約として結実した。世界の大国は依然として大量の核兵器を保有し、核軍縮の動きは足踏みしている。条約発効を機に、世界の現実を変える力を広げていかなければならない。

 条約の前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記されている。日本の原爆被爆者や核実験の被害者らを念頭に置いたものだ。全ての核兵器の開発、実験、保有、使用を禁止。使用の威嚇も禁じることで「核抑止力」を否定した。2年に1回の締約国会議や発効5年後の再検討会議に、非締約国がオブザーバーで参加できる規定を設けた。

明確な国際法違反

 条約は2017年、122カ国・地域の賛成で国連採択され、各国の署名・批准手続きを開始。24日のホンジュラスの批准で発効条件の50に達した。署名・批准国には中南米、アフリカ、オセアニアの小国が多い。

 一方、米英仏ロ中の五大保有国は条約への参加を拒否。その他の保有国のイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮も同様だ。米国の「核の傘」に頼る日本も安全保障上の理由から参加していない。不参加国には条約の順守義務がない。

 このため条約は実効性に乏しく、核兵器の廃絶などできないという批判もある。だが、発効すれば核保有は「国際法違反」のそしりを免れなくなり、廃絶への圧力となる。人々の意識を変化させ、世論によって各国政府に働きかけることもやりやすくなるはずだ。

締約国の連携網を

 核兵器が人類に害悪をもたらすのは明らかだ。国際司法裁判所は1996年、核兵器使用が国際人道法に「一般的に反する」という勧告的意見を出した。2009年、当時のオバマ米大統領はプラハ演説で「核兵器なき世界」を目指すと宣言した。

 しかしストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、今年1月時点の世界の核兵器保有数は推定1万3400に上り、その9割を米国とロシアが占める。

 五大保有国は核拡散防止条約(NPT)で核軍縮交渉を義務付けられてきた。にもかかわらず米国とロシアとの間で結ばれていた中距離核戦力(INF)廃棄条約は昨年、失効。中国も含め新型ミサイル開発などが進み、削減どころか軍拡の動きが強まっている。

 米国とロシアの間に唯一残る核軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)も、来年2月5日までの期限が迫っているが、両国の交渉は難航している。核兵器禁止条約の締約国によって、新START延長とNPTの核軍縮交渉推進を求める連携網が形成されることを期待したい。

 国連事務総長は、禁止条約発効から1年以内に締約国会議を招集する。今後、条約をどう発展させていくかを議論するプロセスが始まる。実際に廃絶を進めるには、廃棄の経費や環境への影響、透明性や安全性も考えなければならない。締約国はさらに批准国を増やす努力をすべきだ。国民レベルでも、条約の理解を広げる活動に取り組みたい。

オブザーバー参加

 日本政府は米国の核の傘に依存する一方で、保有国と非保有国の「橋渡し役」をするとしてきた。そうであれば条約に背を向け続けることはできないはずだ。オブザーバーとして締約国会議に加わることから始めることもできる。今こそ分断された保有国と非保有国をつなぐ時ではないか。唯一の戦争被爆国として、核廃絶への新たな一歩を踏み出してもらいたい。