(4)「堤防決壊」外側からの圧力想定外 あふれた水が川へ逆流

熊本日日新聞 | 2020年8月31日 00:00

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 熊本県人吉市中神町の球磨川右岸。7月4日の豪雨で、堤防が長さ約30メートルにわたって決壊した。さらに1・4キロ下流の左岸でも約10メートル決壊。ただ、堤防を壊したのは、増水した濁流でなかった。いったん堤防を大きく越えて市街地にあふれた水が、再び球磨川に「戻る力」で壊れたと分析される。

 同じような現象による堤防決壊は、2019年10月の台風19号の際に宮城、福島両県の阿武隈川流域でも発生したが、頻発しているわけではない。

 堤防は、川が流れる内側だけをコンクリートで固めるのが築造の基本。外側は芝を張るだけだ。「濁流が外側から押し寄せる事態は想定していない」と国土交通省九州地方整備局(九地整)の牟田弘幸・河川計画課長補佐。

 九地整はすぐに、原因究明と復旧方法を検討するため、学識者5人でつくる堤防調査委員会を設置。7月13日には現地調査に着手し、破損した堤防のアスファルトや土が川の内側に流れ落ちていたのを確認した。

 九地整によると、現場付近では遅くとも4日午前6時ごろ、球磨川の濁流が堤防を越えたとみられる。現場近くの支流の万江川の水も球磨川に流入できなくなって氾濫した。田畑や民家が広範囲で浸水し、堤防自体も完全に水没。水位は右岸の決壊箇所で堤防の頂点を少なくとも2・5メートル、左岸の決壊箇所では4メートルも上回った。

 その氾濫した水が、やがて球磨川の水位の低下に伴って勢いよく逆流し始めて、堤防を壊した可能性が高いという。九地整は4日午後3時ごろに2カ所の決壊を確認しているが、実際の発生時間は絞り込めていない。

 牟田課長補佐は「決壊によって氾濫した水が引くスピードも速まったとみられる点も踏まえ、復旧方法を考えていく」と説明。家屋や家財道具などが水に漬かっている時間を極力短くするため、氾濫した水を意図的に川に戻す仕組みも必要だとして、自動開閉式のゲートの設置なども復旧の選択肢に入れているという。

 一方、住民らは「堤防決壊」のメカニズムより、「堤防を越えたこと自体が問題だ」と口をそろえる。

 人吉市中神町大柿地区で町内会長を務める一橋國廣さん(76)は「氾濫した水が戻る勢いで堤防が壊れたかどうかは、住民には関係ない」と強調。1965年の豪雨の後に堤防ができて、地域住民は「これで安全」と思い込んでいたという。「まさか堤防を越えて来るとは考えていなかった」と驚く。

 ただ、堤防を高くすれば、内水氾濫が起きた場合、今度は排水することができなくなる。一橋さんは「高台に家を移るしかないのかな…」とこぼす。

 堤防調査委の委員長を務める九州工大の秋山壽一郎名誉教授(河川工学)は「気候変動で雨の降り方がすごく激しくなっている。もはや堤防だけで対応できるレベルではない」と言い切る。(宮崎達也、小山智史)

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