(5)「気候変動」線状降水帯、予測は困難 観測技術、追いつかず

熊本日日新聞 | 2020年9月1日 00:00

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今回の豪雨の雨雲レーダー画像。雨雲が東西の広範囲に広がっていたことが分かる(気象庁などのデータを基に作成)

 「前日夜の段階で、通常の警報を超えるような災害の可能性が高いとは想定していなかった。われわれの実力不足だ」

 豪雨による甚大な被害の発生から11日後の7月15日、気象庁で定例記者会見に臨んだ関田康雄長官のマスク越しの声は沈んでいた。

 気象庁は2018年7月の西日本豪雨で、特別警報発表の前日に臨時会見を開き、警戒を呼び掛けた。19年10月の台風19号の上陸前にも臨時会見を開き、「特別警報を発表する可能性がある」と注意喚起した。しかし今回、そうした対応は取らなかった。

 気象庁は7月3日午後の段階で、熊本県内の4日午後6時までの24時間降水量を「多い地域で200ミリ」と予想していた。3日午後5時前の時点でも、県南部には注意報しか発表しておらず、特別警報の発表は、日をまたいで明け方の4日午前4時50分だった。

 実は、気象庁が3日に気象事業者に示した資料によると、24時間降水量を「九州で最大400ミリ」とする予測値も含まれていた。しかし、熊本県内に関して庁内の意見は200ミリで一致。一般には発表されなかった。

 関田長官は定例会見で詳しい経緯には口をつぐんだ。ただ、予測が難しい要因として、豪雨の原因となった「線状降水帯」発生の条件の一つである上空の水蒸気量を正確に見積もることができない点を強調。「予算要求して技術開発を進めたい」と悔しさをにじませた。

 「現在の観測技術で線状降水帯発生の時間や場所を予測するのは、ほぼ不可能です」。気象学が専門の熊本大大学院先端科学研究部の冨田智彦准教授もこう指摘する。

 気象学では、台風や移動性高気圧といった規模が大きい大気現象ほど予測しやすい。そのため、大きさで数百キロ、時間にして数日間の現象は数日前から正確な予想がつく。しかし、今回のようなピンポイントに近い線状降水帯による集中豪雨の時間や場所の予測は極めて難しいという。

 加えて今回は、複数の線状降水帯が同時多発的に発生。従来想定されなかった現象で、梅雨前線が一定地域に固定されるなど複数の条件が重なったことで発生したとみられる。

 冨田氏によると、日本や中国、米国など各国の最新技術で気候をシミュレーションしても、各地で実際に観測されている大気の状況を、まだ的確に再現できないという。

 気候変動に観測技術が追いついていない現状で、国土交通省は過去の降雨実績に基づく従来の治水対策から、降雨量などの変化を反映した対策へとかじを切りつつある。流域の全関係者を巻き込み、利水ダムの治水利用や避難体制の強化、低リスク地域への移転促進なども組み込む「流域治水」への転換だ。

 ただ、同省河川計画調整室の齋籐正徳課長補佐は強調する。「治水の柱である堤防やダムの整備をやめるわけではなく、『従来の対策に加えて』という意味だ」(太路秀紀、嶋田昇平)

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