(1)4日で豪雨3ヵ月 球磨川治水、データで探る

熊本日日新聞 | 2020年10月4日 00:00

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熊本豪雨から3カ月。甚大な被害をもたらした球磨川は清流が戻り、川面は夕日に染まった=3日午後5時40分ごろ、人吉市(小野宏明)

 7月の豪雨災害から4日で3カ月。流域に甚大な被害をもたらした球磨川は、熊本と宮崎の県境を源流に東から西へと流れ、球磨村付近で北に流れを転じて八代海に注ぐ。幹線延長は115キロに及び、流域面積1880平方キロは県面積の4分の1に匹敵。人吉・球磨盆地と八代平野を除けば険しい山岳地帯を貫く。

 7月4日未明から朝にかけて約8時間、この球磨川流域を「線状降水帯」がすっぽりと覆った。流域に国と県が設けた計54観測地点の多くで観測史上、最大の雨量を記録。気象庁も想定できなかった豪雨は流域だけでも50人の命を奪い、県内全域での死者・行方不明者は計67人に上った。

 球磨川は、上流部の人吉・球磨盆地でいったん広がった川幅が、球磨村渡地区から八代市の遙拝堰[ようはいぜき]までの中流部で細くなる。「2020熊本豪雨 川と共に」第2部は「難治-繰り返される氾濫」と題し、この独特の地形を前提に、今回の雨の降り方をデータを基に分析する。

 その上で、国土交通省が球磨川治水の金科玉条とする「河川整備基本方針」を読み解き、これからの治水策の在り方を探る。(太路秀紀)

●両岸に山、大水の流れ阻害

 球磨村渡地区から八代市の遙拝堰[ようはいぜき]までの球磨川中流部約40キロは、両側から山が迫り、人吉・球磨盆地で広がった川幅が狭くなる。


 新潟大の大熊孝名誉教授(河川工学)は、この長い山間狭窄[きょうさく]部があるため、「上流側の人吉・球磨盆地の土砂堆積が助長され、大水は流下が妨げられやすい」と指摘する。

 7月4日未明から朝にかけて中流部一帯には50ミリ以上の非常に激しい雨が断続的に降った。球磨村の観測地点「神瀬[こうのせ]」では1時間に最大78ミリ、芦北町の「大野」では79ミリ。正午までの累計は神瀬で563ミリ、大野で499ミリなど450~550ミリ前後を記録した。

急速上昇

 このため狭窄部入り口となる渡地区では、中流部に降った雨と上流からの急流がぶつかって、急速に水位が上昇。早い段階で氾濫が発生したとみられる。

 狭窄部が“自然のダム”のような役割を果たし、上流の人吉市側では流下しきれない水が氾濫したとの指摘もある。流域に詳しい県立大の中島熙八郎名誉教授(農村計画学)は「狭窄部の存在が下流の八代平野側への大水流入を軽減した面もある」と推測している。

あばら骨

 7月3、4日は流域の各支流でも記録的な降水量を観測した。3日の降り始めからの累計は、人吉市で左岸側から合流する胸[むね]川流域の「砂防人吉」で502ミリを記録。他に左岸側からは、仁原[にはら]川の「湯前」477ミリ、鳩胸[はとむね]川の「大畑[おこば]」440ミリ、鵜[う]川の「球磨」441ミリ、芋[いも]川の「岳本」472ミリなど軒並み400ミリを超えた。

 右岸側では、小椎[こしい]川の「黒肥地[くろひじ]」で381ミリ、阿蘇[あそ]川の「須恵」で414ミリ、田頭[たどう]川の「深田」で453ミリ、万江[まえ]川の「大川内[おおかわうち]」(欠測あり)で460ミリなどを記録した。

 球磨川は最大の支流の川辺川と比較的大きな万江川に加え、小さな支流が次々と直角に合流する。大熊氏は、こうしたあばら骨状の水系で流域全体に同じように大雨が降った場合、「多くの支流から同時に大水が流れ込むため、本流でも上流から下流まで同時に水位が上昇する」と分析。下流ほど川や水が集まる木の枝状の水系とは違うと指摘する。

 いくつかの支流の合流部では、本流の水位が高くて水が流れ込めずにあふれる「バックウオーター」の痕跡もみられた。

治水効果

 建設が中止された川辺川ダムの計画地より上流のダム集水域の雨量は、球磨川本流の中・上流部と比べると少なかった。

 五木村の「五木」で累計430.5ミリ、八代市泉町の「久連子[くれこ]」で361ミリ。最上流部の「開持[かいもち]」「葉木[はぎ]」「仁田尾[にたお]」「平沢津[ひらさわづ]」といった観測地点では250~350ミリとさらに少ない。同じ川辺川流域でもダム本体より下流の「四浦[ようら]」では462ミリを記録した。

 こうした状況から、複数の専門家は、川辺川ダムが完成していた場合、雨はダムの貯水能力以下にとどまり、上流からの水を貯留せずに流す緊急放流(異常洪水時防災操作)には至らなかった、との推測で一致する。

 京都大防災研究所の角哲也教授(河川工学)は「ダムが完成していれば被害の大幅軽減につながった」と分析。一方、京都大の今本博健名誉教授(同)は「川辺川ダム上流の集水域の雨量が比較的少なく、ダムの治水効果が発揮しやすい降り方だった。今回の雨だけで球磨川の治水を議論するべきではない」とした。(太路秀紀、堀江利雅)

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