(5)堆積する土砂対策 ダム撤去見据えた視点も

熊本日日新聞 | 2020年10月8日 00:00

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ゲートが全開になったままの瀬戸石ダム。奥が上流で、石や流木がたまった手前の右岸が球磨村、対岸の左岸が芦北町=7月17日(池田祐介)

 想定内の雨に対しては治水効果を発揮して「治水安全度」に寄与するダムだが、年数がたつにつれて避けられない問題がある。上流からの土砂の堆積だ。

 9月11日、球磨川流域の住民らでつくる市民団体「瀬戸石ダムを撤去する会」の会員10人が、熊本県八代市の国土交通省八代河川国道事務所を訪れた。出水晃共同代表(76)は「堆積した土砂とダムが川の流れを妨げ、急激な水位上昇を引き起こして被害を拡大した」と訴え、瀬戸石ダムを運営する電源開発(Jパワー、東京)にダム撤去を求めるよう迫った。

 瀬戸石ダムは、球磨川中流の狭窄[きょうさく]部(左岸・芦北町、右岸・球磨村)に位置し、1958年に発電を開始。2000年代に入り、2年に1度の国の定期検査でダム湖に堆積した土砂による洪水の危険性を指摘され続けてきた。

 今回の豪雨では7月4日午前7時までにゲートを全開。流入量がそのまま流れる「自然河川に近い状態」(Jパワー)にした後に操作員も避難した。濁流は両岸の道路にもあふれた。

 Jパワーは堆積した土砂の除去を毎年続けているが、流域に詳しい県立大の中島熙八郎名誉教授(農村計画学)は「水面の高さはダ厶建設前より推計で6~9メートル高くなっている」と分析。「今回も水位を相当押し上げた」として、ダムを撤去するべきだと訴える。

 一方、Jパワーは堆積した土砂の影響について「調査中」。

 瀬戸石ダムの約10キロ下流の八代市坂本町には、球磨川初のダムとして1955年に完成した発電用の県営荒瀬ダムがあった。紆余曲折[うよきょくせつ]あったが、2018年3月、全国のダムで初めて撤去された。

 荒瀬ダム撤去の方針は02年、電力需要の低下や施設の老朽化などを理由に、当時の潮谷義子知事が県議会で表明。10年の撤去開始を目指して工法や環境対策などの検討を進めたが、蒲島郁夫知事が08年6月、撤去方針を凍結した。最大の理由が当時危機的状況にあった県財政だ。

 60億円と予想していた撤去費用は72億円まで膨らみ、「莫大[ばくだい]な費用を使って撤去するより補修する方が安く、有効利用するべきと判断した」と蒲島知事。さらに検証を進めると、費用は約92億円まで膨らんだ。蒲島知事は「苦渋の決断だ」と強調した。

 ところが09年9月、ダムに否定的な民主党の鳩山政権の誕生で、荒瀬ダム撤去への期待が高まり、蒲島知事のダム存続姿勢も揺らいだ。旧知の仲の前原誠司国土交通相(当時)にダム撤去への国の財政的、技術的支援を要請。国の対応を見極める姿勢に転じた。

 結局10年1月、前原国交相が、川の水を発電に使う水利権の更新を認めなかったことが“決定打”となり、蒲島知事はダム存続を断念、撤去に至った。一連の流れは、下流への影響を抑えた工法や撤去費用など、廃止する時も見据えてダムを造るべきだというこれまでになかった視点を浮き彫りにした。(太路秀紀、山本文子)

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