守り支える人々 「命の証し」伝えたい<語り出す絵画たち 菊池恵楓園「金陽会」(中)>

熊本日日新聞 | 2020年10月14日 10:00

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金陽会の作品保存活動を続ける藏座江美さん。「ふるさとをずっと思い続けてきた画家たちの存在を知ってほしい」と、2018年に奄美大島への「里帰り展」を実現させた=17年、合志市

 菊池恵楓園(合志市)の絵画クラブ「金陽会」が所蔵する絵画は900点以上。全国のハンセン病療養所でも例のない規模のコレクションは長年、メンバーの一人、吉山安彦さん(91)が管理してきた。10人の仲間のうち7人はこの世を去ったが、「後は頼むけんな」と絵を託されたという。

 一般社団法人「ヒューマンライツふくおか」理事の藏座江美さん(福岡市)は、吉山さんを支え、2016年3月から本格的に作品保存活動を続けてきた。ボランティアと月に1回集まり、データベース化のために作品を調査。コンディションチェックや額の修復、展覧会のための梱包[こんぽう]作業も担う。現在は新型コロナウイルスのため休止中だが、これまで参加したのはカメラマン、デザイナー、木工職人、新聞記者、大学教員、大学生など延べ400人に上る。

 当初から参加するイラストレーターのコーダ・ヨーコさん(合志市)は「絵を見ること、吉山さんご夫妻に会うことが一番の楽しみ。それにここに来ると、ハンセン病問題はまだ終わっていない、私は今も『知らない』ことで差別を繰り返していないかと考える機会になるんです」。

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 藏座さんと金陽会の出会いは、熊本市現代美術館の学芸員だった17年前。アトリエで、初めて絵を見た。つらい記憶を描いた絵ばかりに違いない-という先入観は裏切られた。

 「そこにあったのは、一度だけ行った遠足や懐かしい古里、家族、日常の喜びを描いた絵画。明るくて、光を放っているようでした」

 展覧会を開きたいと、園に通い、絵についての聞き取りを始めた。どの作品にも、かけがえのない物語があった。しかし、高齢化の進む園で、話を聞かせてくれた人は次々といなくなっていく。「大切な記憶や人生を語ってくださったんです。これを私だけの体験に留めてしまってはいけない」。焦りに似た思いが、活動の原動力になった。

 「全国の療養所では、入所者の絵画などは引き取り手がいないと焼却処分されるそうです。恵楓園に残っているのは、吉山さんが大切に守ってきてくれたから。そんな『命の証し』を、どうやって後世に伝えていけばいいんだろう」

 展覧会では絵と、作品にまつわるエピソードを一緒に紹介している。絵の背後にある物語に、思いをはせてほしいからだ。「隔離政策をテーマにした作品もありますが、虐げられてきた怒りや人権侵害を訴えるためだけに、絵を描いてきたのではないはず」

 恵楓園の画家たちは仲間同士励まし合いながら、日々暮らす中で見いだした生の喜びをキャンバスに刻んでいた。「私は絵を通して、金陽会の皆さんのことを語りたいのかもしれません。恵楓園で絵を楽しみに生きてきた人がいる。一人一人がここにいたという事実を、伝えたいんです」(小野由起子)