(6)”避難” 施設で完結困難 地域、行政の支援強化を

熊本日日新聞 | 2020年10月22日 00:00

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高齢者の迅速な避難方法を議論する検討会の初会合=7日、国土交通省

 10月7日、東京・霞が関の国土交通省1階会議室。高齢者福祉や防災、建築などを専門とする学識者が集った。同省と厚生労働省が熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」で14人が亡くなった事態を受けて設置した「高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会」。高齢者施設の避難の改善策を2020年度内に取りまとめることを目標にする。

 座長に選任された跡見学園女子大の鍵屋一教授(福祉防災)は、冒頭のあいさつで「認知症の人たちは移動そのものがリスク。知らない場所では不安定になったり徘徊[はいかい]したりする。避難そのものの困難さを理解しなければ(議論は)実効性のないものになる」と強調した。

 両省は、千寿園の避難計画や対応などを調査。把握した情報をA4判68ページの資料にまとめて委員に示した。その中で、主な問題点として、避難計画が水防法の定める最大規模の浸水を想定していなかったことや、屋外避難先の設定が非現実的で屋外避難の訓練も実施していなかったことを挙げた。2階への垂直避難に時間を要したことも指摘した。

 委員からは「被災当時入所者らは70人おり、2階の垂直避難には限界があった」「予想よりもはるかに多い雨が降り、職員に避難の判断は難しかった」などの意見が出た。

 委員の一人、兵庫県立大大学院減災復興政策研究科の阪本真由美教授は、避難行動の分析に取り組んできた。18年の西日本豪雨では、死者51人が出て、その約8割が70歳以上の高齢者だった岡山県倉敷市の真備町地区などで住民にアンケートをした。

 阪本教授は千寿園の事例を「結果論だが、(浸水の前日)7月3日午後10時20分に発令された避難勧告の段階で行政や消防に避難の判断などを相談し、園側が職員を集める判断ができていれば被害は防げた可能性がある」と指摘する。

 台風や豪雨で高齢者施設が被災し、入居者らが犠牲になる例は千寿園のほかにもある。09年の豪雨では、山口県防府市「ライフケア高砂」の7人が土石流で犠牲になった。16年の台風10号による河川の氾濫では、岩手県岩泉町のグループホーム「楽[ら]ん楽[ら]ん」で9人が亡くなった。

 阪本教授は高齢者施設の避難の実効性を高めるために「職員だけで避難の判断や実際に避難を完結することは不可能だ。地域や行政が助ける仕組みの強化が求められている」と強調する。

 山間部には安全な平地が少なく、千寿園のように災害の危険性が排除できない場所に高齢者施設が立地しているケースは多い。

 阪本教授は「十分な垂直避難場所を確保するための施設の改修などをさらに国が後押しする必要がある。実効性のある避難計画づくりを施設だけに任せず、行政がサポートしていくことも重要だ」と力を込めた。(嶋田昇平、隅川俊彦)

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