(7)“介護” 現地での再開断念 村の福祉拠点、機能停止 

熊本日日新聞 | 2020年10月23日 00:00

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豪雨災害後、球磨村で唯一となったデイサービスセンター=7日、球磨村一勝地の高齢者生活福祉センター「せせらぎ」

 「千寿園の20周年祝いで出たアユがおいしかったんです」。熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」でデイサービス(通所介護)を利用していた野々原キミエさん(89)は、豪雨被災直前の6月の昼食時に出た「ごちそう」を今も思い出す。

 千寿園の開設は2000年6月。それまで老人ホームがなかった球磨村にとって待望の施設だった。村が建設地を購入・造成し、社会福祉法人「慈愛会」に無償貸与。同年4月には介護保険制度がスタートし、ホームヘルプ(居宅介護支援)やショートステイ(短期入所)もある千寿園は、在宅から入所まで一貫して介護サービスを提供できる村唯一の役割を果たしてきた。

 野々原さんも同居の息子夫婦が不在の際、「ショートステイが使えたので助かった」。デイサービスには7年近く通い、不自由だった足は機能訓練のかいもあって「部屋ではつえがなくても歩けるようになった」。千寿園は、生活にメリハリを与えてくれる場所だったという。

 しかし、豪雨で神瀬地区の福祉センター「たかおと」も機能が停止するなど、村の高齢者を取り巻く環境は一変。千寿園の被災で入所施設は皆無となり、ホームヘルプやデイサービスも、提供元は一勝地地区の高齢者生活福祉センター「せせらぎ」だけになってしまった。

 せせらぎのデイサービス利用者は現在47人。うち17人は元々、千寿園とたかおとの利用者で野々原さんもその一人。ただ、落橋などが相次いだ道路は十分に復旧しておらず、ホームヘルプも含めて送迎や移動に制約を受けている。

 せせらぎを運営する村社会福祉協議会は、災害ボランティアセンターの対応も継続中。10月下旬からは「地域支え合いセンター」も運営し、被災者の見守り活動も担わなければならない。「今後もさまざまな要望が出てくる」と村社協の板崎雄治事務局長(61)。マンパワーの確保や態勢強化は大きな課題だ。村の高齢化率は9月末時点で45・0%。県平均の31・1%を大きく上回っている。

 全国の自治体は20年度、3年ごとに更新する介護保険事業計画(21~23年度分)を策定中で、村も実態に見合った新計画を立案しなければならなかった。しかし「人口の流出もあり、要介護認定者の把握も難しく、介護事業の担い手も定まらない」と村住民福祉課は頭を抱える。特に入所サービスは被災後、村外施設にショートステイで対応してもらうなど綱渡りが続いているのが現状だ。

 千寿園を運営してきた慈愛会は、現地での事業再開を断念。松谷浩一村長は「千寿園がなくなり、高齢者福祉の政策を見通せる状況にない。社協だけで高齢者を支えるのは不可能」と言い切る。

 村が代替地を用意することも念頭に「村の福祉の実情をよく分かっている慈愛会とよく話し合いたい」と松谷村長。高齢者が5割に迫る人口3400人の山村は厳しい現実に直面している。(小多崇、隅川俊彦、小山智史)=第3部終わり

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