(上)「多目的」計画 消えた「利水」「発電」

熊本日日新聞 | 2020年10月27日 00:00

image
第2回球磨川豪雨検証委員会の会合後、記者に囲まれ質問に答える蒲島郁夫知事=6日、県庁(高見伸)

 国、熊本県と球磨川流域12市町村が、7月豪雨で氾濫した球磨川の治水対策を検討する「流域治水協議会」が27日始まる。検討に当たり蒲島郁夫知事は、川辺川ダムを治水の選択肢に含めると表明した。ただ、同ダム建設は、知事自らが12年前の2008年9月、県議会で「白紙撤回」を表明した事業。ならば今、そのダム計画はどうなっているのだろう。改めておさらいする。

 今月6日、県庁で開かれた7月豪雨災害の検証委員会。国土交通省は「川辺川ダムが存在していたら、人吉市の浸水面積は約6割減っていた」-などとする推定結果を資料を交えて説明した。

 しかし、そこで示された資料に首をかしげた人も少なくなかったろう。洪水調節の役割などを定めた川辺川ダムの「目的」の項目にはこんな記載があったからだ。

 ・かんがい用水の確保 【撤退表明】

 ・発電【撤退表明】

 撤退表明とはさて、どういうことか。

 「さまざまな経緯がありまして…平成19年(07年)1月、ダムを水源とした利水計画を取りまとめることはない、と国交省に説明しました」というのが、農水省・九州農政局(熊本市)の説明だ。

 川辺川ダムからパイプラインで水を引き、球磨川右岸の3千ヘクタール以上に農業用水を届ける計画だった「国営川辺川総合土地改良事業」。現在は、計画の主柱である利水事業を廃止した上で、完成済みの一部パイプの撤去や配水施設の売却など残務処理を進める。「順調に行けば来年度、国営事業の完了公告を官報に掲載できる」(農政局水利整備課)

 “さまざまな経緯”の最大の出来事が03年5月、福岡高裁で国の敗訴が確定した利水訴訟だ。事業計画変更の手続きに不備があるとして多くの地元農家が提訴。高裁は同意署名が法定数に満たないと認め、計画変更は無効と判断した。その後、農水省と地元の協議を経て、ダムの目的の一つだった「かんがい用水の確保」(利水)は失われた。

 次に「発電」。基本計画では電源開発(Jパワー・東京)がダムから取水して水力発電所を設けることになっていた。ところが07年6月、同社は国交省の九州地方整備局(福岡市)に、ダム建設の見通しが立たないため、発電事業への参画を断念すると回答。発電もダムの目的から消えた。

 こうして多目的ダムである川辺川ダムの現計画は、主目的の二つを失った。残る目的は「洪水調節」「流水の正常な機能の維持」(渇水対応)だけ。実態は、08年に蒲島知事が「白紙撤回」を表明するより前に、そのままでは着工困難な状況に陥っていたことになる。

 それだけに12年後の今、おびただしい犠牲者を出した水害後の治水を検討する場に、「利水」「発電」を抱えたままの古い計画が持ち出される風景は、何とも奇妙に映る。(宮下和也)

ランキング

イベント情報