暗闇や急坂、命懸け痛感 熊本県警山岳救助隊・夜間訓練密着ルポ 遭難に供え、訓練積む

熊本日日新聞 | 2021年09月19日 08:31

秋の行楽シーズンを前に、県警山岳救助隊が7日、阿蘇中岳、高岳で行った夜間訓練に同行した。夜明け前、隊員たちはヘッドライトの明かりを頼りに、足元の悪い急な岩場を慎重に登って行った。(東誉晃)

 新型コロナウイルス禍で屋外でのレジャーが注目され、秋の行楽シーズンには登山者の増加が見込まれる。熊本県警山岳救助隊は遭難事故に備え、阿蘇山系などで訓練を重ねている。中岳、高岳での夜間訓練に同行し、夜の山歩きの危険性や過酷な救助作業を体験した。(東誉晃)

 7日午前3時半すぎ。漆黒の闇が広がる中、隊員8人と共に阿蘇山上広場を出発。ヘッドライトの明かりを頼りに、中岳経由で高岳山頂を目指した。1時間ほどたつと、道は急勾配になり、岩を両手でつかみながらよじ登る。「ラーック(落石)!」。隊員からは何度も注意を促す声が飛ぶ。

 大小の岩塊が転がる道でよろめき、足首をひねった。さほど痛みはなかったが、暗闇が恐怖をかき立てた。

 訓練は、右足を骨折した登山者1人が、高岳山頂付近で動けなくなった想定。高低差約450メートル、約5キロの山道を登り、負傷者を交代で背負って下山する計画で実施した。

 今年に入り、阿蘇山系では3件の遭難事故が発生。いずれも昼間や夕方に入山し、暗くなって道に迷った登山者を同隊が救出した。夜間や霧などの場合、救助ヘリは出動できない。岩下桂巳[けいし]副隊長(39)=阿蘇署地域・交通・警備課長=は「要救助者が寒さや装備不足で夜を越せない場合もある。訓練は、暗闇でのルート把握や方向感覚を身に付けることが狙い」と話す。

岩場の急坂で要救助者の搬送訓練をする県警山岳救助隊員ら=7日、南阿蘇村

 負傷者役の警察官を背負っての下山も過酷だった。搬送には空のリュックサックを使い、隊員は数十~百メートルごとに交代しながら進む。既に夜は明けていたが、登りの際に苦戦した岩場では足を滑らす場面もあった。

 約6時間の訓練を終え、豊住良平隊員(31)=高森署地域課=は「暗闇では神経を使い、体力の消耗が激しい。登山道の特徴や歩き方のこつなどを学ぶため、さらに経験を積みたい」と話した。

 記者も訓練の終盤、平地で人を背負った歩行を体験した。疲労困ぱいの体に人の重みがズッシリとのし掛かり、落とさないように歩みを進めるのがやっと。安全を確保しながら急斜面の悪路を進むことを考えると、隊員の労力は並大抵なものではない。救助は命懸けだ。

 夜の山を体験したことで、遭難者の心理にも想像が及んだ。道に迷った焦り、滑落の恐れ、暗闇の恐怖…。負傷すれば痛みにも耐え続けなくてはならない。命を落とす可能性もある。安易な登山の怖さを痛感した。

 事故抑止のために必要なことは-。「気象条件を確認し、余裕を持った計画を立て、ルートを把握した人を含む複数人で登ること」と岩下副隊長。また、家族や知人に計画を伝えることや、登山届けの提出は大前提。不測の事態に備え、「十分な食料や飲料、防寒具も用意してほしい」と呼び掛ける。

日の出前、ヘッドライトをつけて高岳を登る県警山岳救助隊員ら。奥は阿蘇中岳の噴煙=7日、高森町

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