(4)流域の農家 遊水地案も営農に不安

熊本日日新聞 | 2020年11月15日 00:00

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豪雨で運ばれた黒い泥に埋まったままの水田に立つ川原計さん。この水田も遊水地案の候補となっている=10月29日、錦町

 川辺川ダムの代替案として検討された遊水地の区域に水田がある農家は、複雑な思いで球磨川治水の行方を見守っている。7月の豪雨では、これらの水田が多く被災。「農地だけを犠牲にするのではなく、ダムも造るべきだ」という声が強まっている。

 「泥ば出さんと来年の作付けはできん。土壌も元通りになるか分からん」-。

 黒い泥に埋まる錦町西の水田を見渡し、川原計さん(73)が唇をかんだ。水田約1ヘクタールの大部分が豪雨で水没。コメの収量は半減した。すぐ近くで球磨川と合流する川辺川の水が、被害を拡大させたという。

 川原さんの水田の場所も候補に含まれている遊水地案は、ダムによらない治水を検討してきた球磨川治水対策協議会がまとめた。国土交通省は豪雨の検証で、遊水地があれば下流の人吉市の浸水面積を約4割減らせたと指摘した。

 遊水地案は大きく2通り。買収した用地を掘削する方式と、堤防で囲った区画で普段は農業を営みながら増水時にだけ、水をためて地権者に補償する「田んぼダム」方式がある。

 「山あいの限られた平地で、先祖代々守ってきた農地。掘削すれば環境や景観が犠牲になる」。錦町西の土地改良区代表を務めた尾方幸治さん(74)は、用地買収が受け入れられなかった。しかし、豪雨後の下流の惨状を目の当たりにし、「田んぼダムなら協力すべきではないか」と思うようになった。

 その田んぼダムも、多量の泥が堤防を越えて入ってくる事態が頻発しないかと川原さんは懸念する。川が緩やかにあふれ、水だけが水田に入って引いていくようにするにはダムによる流量低減が欠かせないと言い、「農地ばかり犠牲にすることなく、流域全体で可能な限りの事業をすべきだ」と訴える。

 一方、川辺川が村を縦断する相良村。同村柳瀬の茂吉隆典さん(76)は「国の説明は信用できん。ダムなんていらん」と言い切る。

 1984年、農林水産省は川辺川ダムから人吉球磨の農地に水を送る国営川辺川土地改良事業(利水事業)の計画を決定。同村は最大受益地だった。だが、農家からの同意取得を巡る国の不正が発覚し、訴訟に発展。2003年に国の敗訴が確定すると、計画は頓挫した。

 茂吉さんはこの訴訟の原告団長。豪雨後、ダムがあれば人吉市の浸水面積が約6割減少したとする国の推定も「都合のいいように、どうにでもシミュレーションできる」と疑問視する。国への不信感は根強い。(堀江利雅、臼杵大介)

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