(5)下流の八代市民 堤防や河床、対策優先を 

熊本日日新聞 | 2020年11月16日 00:00

image
球磨川の流れを正面から受け止める萩原堤防。豪雨の際は近くの平山信夫さんが指し示すコンクリートの最上部まで水位が上がったという=3日、八代市古麓町

 7月4日朝。熊本県八代市の球磨川右岸にある萩原堤防では、豪雨による濁流が堤防上端の約1・5メートル下まで迫っていた。地元の太田郷校区長の小笠原亨さん(73)は、堤防近くの町内会長からスマートフォンに送られてきた動画を見て恐怖を感じた。「ここがあふれたら大惨事だ」

 流域最大の約12万6千人が暮らす八代市。全長約2キロにわたる萩原堤防は、大きくカーブする球磨川の流れを、真正面から受け止める。背後に広がるのは、人口や産業が集中する市街地。市民にとって、萩原堤防は治水の要だ。

 江戸時代の1755年に決壊して約500人の死者が出たほか、1965年には一部が崩れ、堤防沿いの旅館が流失した。「日頃から水害に備えるよう住民同士で啓発し合っている。球磨川の氾濫に対する地域の危機感は強い」と小笠原さんは強調する。

 一方、今回の豪雨では、川辺川ダム建設計画が再浮上した。「上流で一定の流量をカットするダムは、市民の命と財産を守るために必要」(中村博生市長)といった声もあるが、小笠原さんは「堤防強化や河床掘削など、目の前の対策を確実に進めてほしい」と注文する。近くの川漁師、平山信夫さん(71)も「土砂の堆積で川が浅くなっている。なんとかしないと…」と訴える。

 その萩原堤防を「フロンティア堤防」として、強化する旧建設省の構想が打ち出されたことがある。堤防をさらに厚くするなどして補強。ダム反対の市民団体が入手した国の資料には「川辺川ダムも市房ダムもない場合で、200年に一度の洪水に対応できる」と明記されていた。

 だが、建設省は2002年、「具体的な整備方法が確立されていない」として撤回した。その後は堤防の根元部分の補強や、水の浸透を防ぐ矢板を打ち込む工事などが進められた。

 このことについて、川辺川ダムの反対運動を主導する出水晃さん(76)=同市萩原町=は「ダム計画の邪魔になって堤防の強化構想が消えたとしたら許されないことだ」と疑念を抱く。

 球磨川と、球磨川から枝分かれする前川に挟まれた同市麦島東町では、今回の豪雨により前川の護岸が幅9メートル、高さ3メートルにわたって崩落した。町内会の役員らが住民に避難を呼び掛けるなど緊張が高まった。

 それでも、麦島校区の自主防災会副会長、藤田照光さん(63)はダム以外の選択肢が優先だと考えている。「どんな大雨も、川辺川ダムの下流で降ればカットできない。八代市に与えるダムの効果は限定的ではないか。堤防の整備や川底の掘削なら、どこで降ろうと効果に結び付く」(益田大也)

ランキング

イベント情報