農家の収入保険、コロナ禍で注目 熊本県内で利用増 価格下落、労働力不足も対象

熊本日日新聞 | 2021年08月30日 14:01

稲の生育状況を確認する松崎武司さん。コロナ禍による昨年の減収を保険で補うことができ、「助かった」と語る=19日、熊本市西区

 新型コロナウイルス禍で、農家の収入減少を補塡[ほてん]する「収入保険制度」の利用が増えている。熊本県内の2020年の保険金支払い実績は約11億円と前年の2・4倍に。21年の加入農家数も前年比1・5倍に伸びた。自然災害に限らず幅広い減収要因に対応する新たなセーフティーネットとして、注目されている。

 収入保険制度は国がTPP対策の一環で2017年、農業災害補償法を農業保険法に改称して創設。19年に運用を始めた。国が農家と掛け金を折半し、資金面で支える。

 既存の農業共済は支払いが自然災害や病害虫被害に限られる。一方、収入保険は価格下落や生産者のけが、病気などあらゆる要因に対応するのが特徴だ。特定の品目や産地に限定した影響緩和対策(ナラシ対策)や野菜価格安定制度と異なり、幅広くカバーする。

 加入できるのは青色申告をしている農家で、過去5年間の収入から基準収入を算出。掛け捨ての「保険方式」と翌年に繰り越せる「積立方式」を組み合わせて補塡開始の目安となる補償割合を決め、減収額に対する「支払率」を選択する仕組みだ。

 熊本市西区中原町で花きのアリウムとコメを生産する松崎武司さん(55)は、20年1月に加入。直後に新型コロナ感染拡大が直撃し、出荷のピークを迎えていたアリウムの売り上げが3割落ち込んだ。しかし、収入保険により例年に近い収入を確保できたという。

 「災害もなく、ちゃんとしたものを作ったのに収入が2割以上落ちるなんて、コロナ前には考えられなかった。保険があって助かった」と松崎さん。新品種への挑戦も考えているといい、「失敗を恐れず前向きに取り組める」と話す。

 県農業共済組合によると、20年に支払った約11億円の7割以上は新型コロナ関連。価格下落だけでなく、外国人技能実習生の入国制限で労働力が確保できず、収入が減ったケースも補償された。

 21年分(1~12月)の県内の加入者数は2123経営体で、20年の1378経営体から大幅に増えた。それでも、大半が青色申告をしている認定農業者数約1万600人(20年度末時点)の2割にとどまる。

 加入が進まない理由の一つは、農家が「高い」と感じる掛け金の額だ。基準収入1千万円で補償割合と支払率を共に90%と設定した場合、積み立ての負担がある1年目は掛け金が約33万5千円となる。

 農家の負担を軽減するため、掛け金の一部を助成する自治体もある。県はコロナ禍の特例として22年分の新規加入者に対し、掛け捨て分の3分の1(上限6万円)を助成する緊急支援制度を新設。水俣市と芦北、津奈木、氷川、苓北、玉東の各町は、さらに独自の補助を上乗せする。

 制度の周知不足に加え、共済などの既存制度と重複加入できない点で足踏みする農家もいる。県農業共済組合は「まだ様子を見ている農業者も多く、メリットを丁寧に説明していきたい」と話す。(中尾有希)

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