妊娠・・・言えない 外国人実習生「解雇が怖い」

熊本日日新聞 | 2020年11月21日 11:30

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留学生の修学や就職などの相談に乗る熊本市外国人総合相談プラザのコーディネーター(左)=20日、熊本市中央区

 新生児2人の遺体を自室に放置したとして、熊本県芦北町で働くベトナム国籍の外国人技能実習生の女(21)が19日、死体遺棄の疑いで県警に逮捕された。容疑者は雇用主らに妊娠の事実を隠していたが、「妊娠すれば帰国させられる」と技能実習生が相談しないケースは全国的に多い。県内でも実習生が増えており、支援団体は正しい情報の周知と環境整備を急ぐよう訴える。

 外国人技能実習生には日本の労働法が適用され、結婚や妊娠、出産を理由にした解雇が禁止されているほか、産前産後の休暇や育児時間も保障される。妊娠・出産の場合も企業の加入する健康保険が適用され、出産育児一時金が支給される。

 ただ、県内で外国人支援に取り組む「コムスタカ─外国人と共に生きる会」(熊本市)代表で、行政書士の中島眞一郎さん(66)は「制度が実習生や現場に十分周知されていない。制度を知らない実習生に一部の企業や監理団体が中絶や帰国を強いることもある」と明かす。

 「コムスタカ」には県内の技能実習生や留学生らから年300件ほどの相談がある。妊娠・出産に関しても今年に入って5、6件寄せられている。

 「解雇されることが怖かった」。予期せぬ妊娠をし、昨年相談をした技能実習生は中絶できない時期になっても一人で抱え込んでいたという。本人が出産と就労の継続を希望したため、中島さんが実習生の所属企業や監理団体、出入国在留管理庁などとやりとりし、出産や子どもの在留資格の取得を支援した。

 中島さんは「妊娠を理由に帰国させるのは違法。制度上は日本で出産し、就労を続けることは可能」とする一方、「産休中の収入だけでは生活費を賄えず、出産後の暮らしの手助けも必要。支援者なしでは制度は機能しない」と指摘する。

 逮捕された容疑者は、雇用主が13日に八代市の監理団体に「10月から体調が悪そうだ」と相談。同団体は容疑者に尋ねたが、妊娠のことは話さずに出勤を続け、病院にも行っていなかったという。

 東広島市でも生後間もない赤ちゃんを遺棄したとして技能実習生のベトナム人の女(26)が12日逮捕されている。中島さんは「借金を背負って働きに来る実習生が多く、解雇を恐れて相談につながりにくい。自分たちとつながっていれば」と悔やむ。「今回の事件は氷山の一角」

 24時間対応の妊娠相談窓口を設置する慈恵病院(熊本市西区)にも、過去に技能実習生の望まない妊娠に関して相談があった。同市外国人総合相談プラザ(中央区)は19言語で相談に応じ、弁護士らにつなぐ支援もしている。

 県外国人サポートセンターは「外国人の妊娠や出産の相談については病院を紹介したり、通訳を派遣したりもできる。悩みごとがあれば気軽に相談してほしい」としている。 (深川杏樹、豊田宏美、山本文子)

 ※外国人向け相談窓口

 ▽県外国人サポートセンターTEL080(4275)4489▽熊本市外国人総合相談プラザTEL096(359)4995▽コムスタカ─外国人と共に生きる会メールgroupkumustaka@yahoo.co.jp